会ってほしいひと2026.03.06
子どもたちの「楽しいから広がる地域活動のかたち|ヨカゴト研究所 濵田直子さん

コロナ禍で地域活動が止まったことをきっかけに始まった「ヨカゴト研究所」。
大村湾の穏やかな景色の中で、「やってみたい」という小さな思いつきから始まった活動が、やがて地域を巻き込む取り組みへと広がっていきました。
その中心にいるのが、地域の仲間たちとともに活動する「ヨカゴト研究所」のメンバーの濵田直子さんです。特別な計画があったわけでも、大きな資金があったわけでもありません。ただ、「面白そうだからやってみよう」という気持ちが、活動の原点でした。
コロナ禍の子どもたちに、楽しみをつくりたい
「家にいながらでも、子どもたちが楽しめることをつくれないだろうか。」
現在、地域イベントの企画やグッズ制作、ボードゲーム開発など幅広い活動を行う「ヨカゴト研究所」の取り組みは、そんな小さな問いから始まりました。
もともとメンバーは、小学校の広報活動や地域ボランティアなどを通じて地域活動に関わっていましたが、コロナ禍でその状況は一変しました。地域の行事や子ども会の活動、小学校での交流イベントが中止となり、人が集まることさえ困難になったことで、子どもたちの活動の中心は地域から家庭へと大きく移っていきました。
そして、保護者も常に子どもと遊べるわけではありません。
「外に出られなくても楽しめる仕組みをつくれないか」と考えたことが、活動の最初の一歩でした。
オンラインから始まった「けん玉運動会」

ヒントになったのは、メンバーの子供会でLINEグループを活用した「けん玉チャレンジ」でした。
子どもたちにけん玉を配り、動画を送り合いながら技を披露する取り組みが盛り上がっていると知り、「この子供会会員以外も楽しめるのではないか」と考えたのです。
こうして企画されたのが、「けん玉運動会」でした。オンラインで技を披露するだけでなく、地域の店舗に協力を呼びかけ、スタンプラリー形式のイベントやおもしろ動画制作ワークショップを開催し、おもしろ動画募集も同時に実施。子どもたちはけん玉の技に挑戦しながら地域を巡り、動画投稿や交流を通してイベントに参加しました。
この企画には、子どもたちだけでなく大人たちも多く関わりました。店舗スタッフや地域住民が応援したり、技の上達を一緒に喜んだりと、イベントを通して新たな交流が生まれました。さらに、世界レベルのけん玉名人にもオンライン出演してもらうことができ、当初の予想をはるかに上回る、想像以上に本格的なプロジェクトへと発展していきました。
この成功体験は、メンバーに大きな気づきをもたらします。
「一人ではできないことも、みんなでアイデアを出し合えば形になる」。その手応えが、次の活動へとつながっていきました。
地域の魅力を伝えるグッズづくりから法人化へ
イベント終了後、「このまま終わるのはもったいない」という声から、メンバーは自主的な活動を継続することを決めました。
大村湾の自然の美しさをもっと多くの人に知ってもらいたいという思いから、地元の生き物をモチーフにしたグッズ制作をスタートしました。古生物好きの中学生が作成した消しゴムはんこをもとに商品化をし、水族館や博物館で販売されるまでになりました。
この販売契約の過程で法人格が必要となり、「ヨカゴト研究所」を設立しました。
その後は、長崎らしいものづくりにもこだわり、波佐見焼のマグカップや地元企業と連携した紙製品など、地域の素材や技術を活かした商品開発にも取り組んでいます。
子どもも大人も「やってみる」文化を育てる
ヨカゴト研究所が大切にしているのは、大きな成功を目指すことよりも、挑戦する姿を地域の中に増やしていくことです。
「大人も子どもも関係なく、まずやってみる。その姿を見て、『自分にもできるかもしれない』と思う人が増えていけば、それだけで地域は少しずつ面白くなっていくと思うんです。」

ある時、不登校の子どもたちの居場所づくりに取り組む地域の人たちから、「子どもたちがもっと自分らしく輝けるきっかけをつくりたい」と、関連テーマの上映会を開催したいという相談を受け、企画の取りまとめを担当したこともありました。
「メンバーの多くはイベント運営の経験が豊富だったわけではありませんが、『まずはやってみよう』という気持ちで一つずつ形にしていきました」。経験の有無に関わらず、挑戦を重ねていく姿勢も、このヨカゴト研究所の活動の大きな特徴の一つです。
活動の対象もあえて限定していません。テーマや雰囲気に共感した人が自然に集まり、それぞれの得意分野を持ち寄りながら活動が広がっていく――そんな形を理想としています。
また、家庭や仕事とのバランスを大切にし、無理のない範囲で継続できる仕組みを意識していることも、この活動を長く続けるための大切なポイントとなっています。
年齢で区切らない、共感から広がる活動

ヨカゴト研究所の活動は、子ども向け、大人向けといった対象をあえて明確に区切っていないことも特徴の一つです。「年齢で分けるのではなく、この活動のテイストや面白さに共感する人が集まればいいと考えています」と話します。
現在は、大村湾をモチーフにしたボードゲームづくりやボードゲーム会の開催にも取り組んでおり、興味を持った人が自然と集まる場づくりを大切にしています。
その取り組みの中で、中学生と一緒に地域版ボードゲームを制作した経験もありました。県のプログラムをきっかけに学校から声がかかり、アドバイザーとして参加。ゲーム好きの生徒が中心となって企画を立ち上げ、大村公園の歴史や地域の出来事をテーマにしたカードゲームを制作しました。アイデアやデザインの基本は子どもたち自身が考え、大人はその表現を活かしながら見やすさや構成を整えるサポートに徹しました。
「完成したときに、自分たちの名前が形として残ることが、将来きっと誇りになると思うんです」。子どもたちの発想を尊重しながら伴走する姿勢も、この活動の大きな特徴です。
また、こうした取り組みを続ける中で、地域や学校、団体から「こんなことをやってみたい」という相談が寄せられるようになりました。「自分たちが一歩踏み出したことで、『そんなこともできるんだ』と感じてくれる人が増え、声をかけてもらえる機会が少しずつ広がっています」。小さな挑戦の積み重ねが、新しい活動を生む循環につながっています。
石を積み、地域に根を張るまで
現在、濵田直子さんは本業として、文化財の石垣などを修復する会社で「石工」として働いています。伝統的な道具を使い、時には道具そのものを自分たちで作りながら石を積み上げていく技術に惹かれ、この仕事を選びました。島原やグラバー園、出島などの現場に携わり、風景の一部を形づくる仕事にやりがいを感じているといいます。
出身は大阪府泉大津市。だんじり祭りのある地域で育ち、京都の芸術大学では立体造形(彫刻)を学びました。学生時代にはロシアの田舎の村に約1か月滞在し、自給自足の暮らしの中で豊かに生活する人々の姿に出会った経験が、自身の人生観に大きな影響を与えました。
帰国後、長崎出身の夫と結婚し、7〜8年前に大村へ移住。古い文化や歴史が生活の中に残り、子育ての環境としても魅力を感じたことが、移住の決め手だったそうです。
「この地域でよかった」と思える循環を
地域活動というと、特別な人が行うものというイメージを持つ人も少なくありません。しかし、ヨカゴト研究所が目指しているのは、誰もが小さな表現や挑戦を持ち寄れる環境です。

一人の小さなアイデアが、周囲の人の協力によって形になり、その楽しさがまた次の挑戦を生み出していく。そうした循環が生まれることで、その地域ならではの文化やコミュニティが少しずつ育っていきます。
「自分の住んでいる地域が、ちょっと面白い場所になってきたなと感じられること。それが最終的には、『この地域に住んでいてよかった』と思えるまちづくりにつながっていくのではないかと思っています。」






