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おすすめしたいもの/食べてほしいもの2023.04.27

九十九島の海が育んだチャレンジ精神| 山口水産社長 山口 惣一郎さん

佐世保市西部の島嶼地域「九十九島」は、西海国立公園に指定された風光明媚な観光地であると同時に、複雑な地形と黒潮がたくさんの魚を育む九州屈指の漁場です。

この海域を舞台に漁業、そして水産物の加工ビジネスを手がける山口水産の社長、山口惣一郎さんは九十九島最大でキリシタンの島としても知られる「黒島」で生まれ育った海の男。子どもの頃から漁師だったお父さんを手伝い、ほとんど毎日船に乗っていたそうです。

冒険心が人一倍強く、いつもまだ見ぬ世界へ果敢にチャレンジし続ける山口さんが歩んできた道のり、そしてこれからの展望についてお話を伺いました。

漁師が加工、販売まで手がける

もともと漁師だった山口水産が水産加工を行うようになったのは、平成18(2006)年のこと。現在47歳の山口さんが30歳の時でした。お父さんの「ごち網漁事業」を引き継いだ際に、漁業(1次産業)だけでなく加工(2次産業)、販売(3次産業)も行う「6次産業(1次×2次×3次=6次)」の法人を設立し、社長に就任したのです。

山口さんは生まれ故郷の黒島の対岸にある、「佐世保中央卸売市場」の移転に伴い造成された埋立地に多額の資金を投入し水産加工工場を建設。多くの黒島の人たちもここに就職しました。漁師一本だけでも十分食べていくことは出来たそうですが、ふるさとの漁業の将来を考えチャレンジする道を選んだのです。

山口水産の加工工場。入荷から出荷までの全工程で、衛生管理を徹底するHACCAP(Hazard Analysis and Critical Control Point)の手法を取り入れています。

みんなで大きくなろう

「温暖化の影響で年々漁獲量が減っているので、このまま漁業を続けていても、将来はどうなるか分からないですよね。でも、加工することが出来れば漁獲量が落ちても付加価値をつけて収益を上げることができる。工場であれば、船を降りた後でも働き続けることができますしね。みんなで大きくなろう、よくそう言っていました。」

実際、山口水産では70代、80代の元漁師の方々が働いています。愛する島の人々の暮らしを支えたい、地域を活性化したい、そんな思いが新たなチャレンジに繋がったのですね。現在は正社員、パート合わせて60名以上の従業員を雇用し、様々な魚種の水産加工を行っている山口水産ですが、始めから全てが順調だったわけではありません。

特殊な技術で加工された山口水産の水産加工食品は、全国へ向けて出荷されます。

チャレンジ精神で失敗を乗り越える

「それはもう、色々な失敗がありました。失敗の連続。」 

取引先の要望に応じて何千万円もするような高価な加工機械を購入しても、その取引先が潰れてしまい機械への投資が全く無駄になってしまうようなことも何度もあったそうです。しかし工場建設時に世界基準の食品衛生管理手法「HACCP(ハサップ)」を導入しており、そのニーズが東京でのオリンピック開催決定をきっかけに高まったことから、事業が徐々に軌道に乗ってきました。「佐世保市優良衛生店表彰」を平成27年から5年連続受賞しました。

「早めにHACCPに取り組んでいてよかったですね。やはり、チャレンジしないと何も生まれないですから。」

そんな山口さんのチャレンジ精神を育んだのは、九十九島の「海」でした。

現在、主に用いているのは19トンの漁船。1隻に5〜6人が乗りこみ漁に向かいます。漁の中心になるのは20代の若手です。

大好きな海とともに

子どもの頃から土日もなくお父さんの漁師の仕事を手伝ってきた山口さん。自然な流れで水産高校に進学し、卒業後は本格的に漁業に取り組みます。20歳頃からはお父さんの代わりに5〜6人の船員が乗る漁船の船長を務めるようにもなりました。

「本当に海が好きなんです。しかもどんどん遠くへ行きたい。島の漁師は近くの海で漁をする人がほとんどですが、私は長崎全域で漁をしました。」

誰も行かないところに行きたい、誰もやってないことをやりたい。そんなチャレンジ精神は、漁の手法にも発揮されました。200mくらいの深海で網を2叟で引く。新たな漁法によって希少価値の高い魚も獲れるようになりました。

行政が6次産業を推進し始めたのもちょうどその頃。中央卸売市場(移転後平成25年4月に地方卸売市場に名称変更)の移転に伴って埋め立て造成した土地を利用した水産加工場を募集したのです。真っ先に手を挙げたのが、社長になったばかりの山口さんでした。

社長になった現在でも、頻繁に漁に出るという山口さん。従業員から「社長は漁に行かないでください」と言われても、やはり船には乗りたいんだそう。
水揚げしてすぐに血抜きをしたり、天候や気温・波の状態を見てちょうどよい量の氷水を入れたりと、船上で適切な処置をすることが魚の鮮度を保つためにはもっとも大切なのだとか。

若い人たちを育てたい

現在、山口水産ではエボダイ・イトヨリ・レンコ鯛・マアジ・平アジ・カマス・ノドグロなどの刺身で食べられる程の鮮度の良い地魚を「干物」にし、特殊な冷凍技術で急速冷凍します。それを鮮度そのままでご家庭にお届けします。また、 自宅で本格的な鯛めしを楽しめる「真鯛の炊き込みご飯の素」など、多彩な水産加工品を製造・販売しています。

さらにフィーレに加工して販売される「イトヨリ」の水揚げ量は、日本でもトップクラス。近年は養殖業者とも協力し養殖ブリの加工にも精力的に取り組んだりと、次々に新しいことにチャレンジする山口さんの次の目標は、飲食業界への進出と若い世代の育成なのだそうです。

「今私の息子が26歳で船長をやっているんですが、その世代の従業員がどんどん増えてきた。若い人には失敗を恐れずどんどんチャレンジしてほしいですね。」

自分自身の経験から得た「チャレンジすることが大切」という教訓を次の世代に伝え、後進を育成することが目下の目標なのだとか。とは言え、まだまだご自身が挑戦することも忘れてはいません。

海が大好きな山口さんの趣味は、なんと「釣り」。仕事でもプライベートでもずっと海にいるんですね。

次の目標は「飲食店の経営」

「次は3次産業… ノドグロをメインにした飲食店に力を入れたいですね。東京や福岡に店を構えて。」

魚の品質に絶対の自信があるため大衆向けの格安店ではなく、企業が接待で使えるような高級店にしたいというビジョンがあるそうです。

山口さんのチャレンジは、これからもまだまだ続いていきます。長崎の美味しい魚を楽しめる飲食店、開店したらぜひ一度行ってみたいですね。

山口水産

長崎県佐世保市大潟町196番地7
TEL:0956-56-3101

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