行ってほしいところ/食べてほしいもの2026.10.31
大村名物「ゆでピーナッツ」の味と伝統を未来へ繋ぐ|浦川豆店 寺西敬祐さん

長崎県大村市で、昔からゆでピーの愛称で親しまれている「塩ゆで落花生 」。
殻付きの落花生を塩ゆですることで生まれる、やわらかな食感とほどよい塩味。
大村では、家庭のおやつや食卓の一品として親しまれているほか、居酒屋でも枝豆のように定番のおつまみとしてメニューに並ぶ、身近な存在です。
地元の人たちにとっては、日常の中に自然と溶け込んでいる味のひとつでもあります。
そんな「塩ゆで落花生 」を長年にわたって作り続けているのが、浦川豆店です。
今回お話を伺ったのは、浦川豆店の三代目・寺西敬祐さん。
もともとは建築を学び、内装関係の仕事をしていたという敬祐さん 。大好きだった建築の仕事を続けながらも、「いつかは家業を継ぐ」と考えていたそうです。
30歳を前に大村へ戻り、現在は朝5時から落花生と向き合う毎日。
今回は、三代目として店を受け継ぐまでの道のりや、落花生へのこだわり、大村とのつながり、そしてこれからの浦川豆店についてお話を伺いました。
建築が好きだった青年が、家業を継ぐまで

高校から大学まで、建築を学んでいた敬祐さん 。
卒業後も内装関係の会社に入り、現場監督や設計の仕事をしていました。
「建築が大好きだったんです」
そんな敬祐さんですが、家業を継ぐことも、以前から頭の片隅にはあったといいます。
「もともと継ぎたいという気持ちはありました。でも、落花生の仕事をする前に、やっぱり自分の好きな建築をやりたかったんです」
そんな中、30歳を前に二代目のお父さま と今後について話す機会があり、大村へ戻ることを決めました。
いきなり家業に入ったわけではありません。
その前に福岡県の落花生会社で約2年間働き、落花生について学びました。
そして30歳を迎える頃、故郷・大村へ。
建築から落花生へ。
仕事の内容は大きく変わりましたが、これまでの経験が今の仕事にも生きているそうです。
「現場監督や設計をしていたので、段取りとか、その場で判断することは、今の仕事でも役立っているかもしれません」
違うように見える二つの仕事ですが、「ものをつくる」というところでは、どこかつながっているのかもしれません。
朝5時から始まる、落花生との一日

浦川豆店の一日は早朝から始まります。
朝5時から、落花生のゆでる作業に取りかかります。
その後、ゆで上がったものを選別し、その合間には、これからゆでる落花生も選別していきます。 「本当に、ひたすら選別していますね」
笑いながら話してくれました。

落花生は農作物なので、一粒一粒の状態が違います。
しかも殻付きの状態では、中が見えません。
ゆでることで、外側に色が出てきて状態が分かるものもあるため、ゆで上がったあとにも再び選別を行います。
塩ゆで落花生 ができるまでには、思っている以上にたくさんの手間がかかっているのです。
一度にゆでる量は約20kg。
ゆで上がるまでには約2時間半かかるそうです。
その間も、次の仕込みや選別を進めながら、一つひとつの工程に向き合います。
おいしい塩ゆで落花生を届けるために、手間を惜しまず、できることを丁寧に積み重ねていく。
「とにかく品質をよくすること」
敬祐さんが仕事をするうえで、何より大切にしていることです。
取材中、言葉を選びながら、ひとつひとつ丁寧に答えてくれた敬祐さん。
その控えめで誠実な人柄に触れると、「品質をよくする」という言葉にも、日々の仕事に向き合う姿勢がそのまま表れているように感じます。
一粒一粒の状態を確かめ、納得のいくものを届ける。その実直な積み重ねが、浦川豆店のゆでピーナッツを支えています。
三代続く、浦川豆店のはじまり

浦川豆店を始めたのは、敬祐さんのおじいさま。
もともとは和歌山の出身で、戦後に大村へやってきたそうです。
当時の大村は落花生の産地。
落花生を集めやすい土地だったことから、商売を始めることになりました。
最初から「塩ゆで落花生 」を作っていたわけではありません。
豆菓子や殻付き落花生 などを扱っていましたが、夏になると乾物はなかなか売れにくい。
そこで、おじいさまが考えたのが「ゆでて食べる」という方法でした。
そのヒントになったのが、戦時中に訪れた中国・海南島で見た食文化。
殻付きの落花生をゆでて食べているのを見て、大村でもできないかと試行錯誤したそうです。
大村にもともとあった「ゆでる」食文化とも相性がよく、少しずつ地域に受け入れられていきました。
そうして長い時間をかけて、「塩ゆで落花生 」は大村の味として根付いていったのです。
おじいさまが始めた商売は、お父さまへ、そして三代目の敬祐さんへと受け継がれてきました。
実は、国産落花生の取扱いでは九州トップクラスなんだそう。そんなことを、お店でお父さまが教えてくれました。
「おいしかった」の一言がうれしい

落花生を扱う仕事の中で、敬祐さんが一番うれしいのは、やっぱりお客さんの言葉。
「おいしかったって言っていただけるのが、一番うれしいですね」
特に、お盆や年末年始などの帰省シーズンには、普段はなかなか会えないお客さんが訪れます。
大村で親しまれてきた、懐かしい味。
久しぶりに食べたくなって訪れる人もいれば、帰省した家族に食べさせたい、ふるさとの味を持ち帰りたいと買いに来る人もいます。
「また来たよ」
そんなふうに声をかけてもらえることも。
毎年のように来てくれるお客さんの顔は、自然と覚えているそうです。
商品を作って販売するだけではなく、長く通ってくれるお客さんとの関係も、敬祐さんにとって大切なものになっています。
大村の落花生を、もう一度

三代目として仕事を続ける中で、特に印象に残っている出来事が「ゆでピープロジェクト」です。
浦川豆店では、もともと大村産の落花生を使っていました。
ところが、農家の後継者不足などによって、大村産の落花生は少しずつ減少。
そこで、大村産の落花生をもう一度作っていこうと、JAなど地域の関係者と連携して取り組みが始まりました。
プロジェクト自体は一区切りつきましたが、その後も大村で落花生を作る取り組みは続いています。
「自分たちの店で使うものを、地域で作ってもらう」
それは、店を続けていくことと、大村の農業を守っていくことがつながっているということでもあります。
三代目として店を受け継いだからこそ、以前とは違った視点で「大村の落花生」を考えるようになったのかもしれません。
地域の人と楽しむ、落花生
敬祐さんは、地域とのつながりも大切にしています。
地域のお祭りで企画されたのが、塩ゆで落花生 を使った「早むき大会」。
制限時間内に、どれだけたくさん落花生の殻をむけるかを競う、ちょっとユニークな企画です。
地元で親しまれている塩ゆで落花生 だからこそ、こんな楽しみ方も生まれるのかもしれません。
大会に出場するために、練習用の落花生を買いに店へ来る人もいるそうです。
「この人が出るんだ」と顔を覚えているからこそ、本番では自然と応援したくなります。
「がんばれ」と思いながら、当日を見守る。
そんなエピソードからも、浦川豆店が地域の中にあるお店だということが伝わってきます。
これからの浦川豆店

これからやってみたいことを聞くと、敬祐さんは少し考えながら、いくつかの構想を話してくれました。
お客さんがゆっくりと商品を選び、店で過ごせるような空間をつくりたい。
そして、現在は横ばいだという大村産落花生の生産量も、できればもっと増やしていきたい。
建築を学んできた敬祐さんだからこそ、店の空間についても「こうしたい」というアイデアがあるようです。
まだ具体的には話せないこともあるそうですが、これから三代目として、自分なりの浦川豆店を作っていこうとしていることが伝わってきました。
おじいさまが始め、代々受け継がれてきた店。
その歴史を大切にしながらも、これからの形を考えていく。
「受け継ぐ」ということは、昔のままを守るだけではないのかもしれません。
大村に来たら、ぜひ立ち寄ってほしい

最後に、大村を訪れる人へのメッセージを伺いました。
「落花生の品質にはこだわって、本当に一生懸命やっています」
そして、
「大村名物と言っていただけているので、帰省などで来られたときには、ぜひ寄っていただきたいです」
と笑顔で話してくれました。
朝5時から始まる、落花生との一日。
選別して、ゆでて、また選別する。
一見すると地道な作業ですが、その一粒一粒の積み重ねが、私たちが知っている大村の味につながっています。
建築の道を歩み、故郷へ戻り、家業の三代目となった敬祐さん。

おじいさまが始めた店を受け継ぎながら、自分自身の経験も生かして、これからの浦川豆店をつくっていく。
「大村名物」と呼ばれるようになった塩ゆで落花生の向こうには、そんな一人の作り手の姿がありました。
浦川豆店
住所(本店):長崎県大村市西本町478-11
営業時間:AM7:00~PM7:00
定休日: 不定休(年6日)
電話番号: 0957-52-2432
HP:
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