おすすめしたいもの2026.02.20
二代目が紡ぐ、命と真摯に向き合う養豚のかたち|上野養豚 上野活樹さん、淳子さん

長崎の丘陵地帯に広がる養豚場。
二代目の上野活樹さんは、毎日豚舎を巡りながら、豚たちの様子を一頭ずつ確かめています。
その一日は、決して派手ではありませんが、静かな積み重ねに満ちています。
学生時代は、理科や数学といった「答えのある世界」が好きでした。
幼いころから豚は身近な存在でしたが、「好き」「嫌い」を意識する以前に、家業としてそこにある存在だったといいます。
そんな上野さんが、自分自身の選択として養豚と向き合うようになるまでには、家族の歴史といくつもの経験がありました。
小さな2頭の豚から始まった営みは、時を経て技術と経験を重ね、地域と人をつなぐ仕事へ。命を育て、送り出す。その一つひとつの時間に向き合いながら、今日も豚舎に立っています。
家族と養豚のはじまり
上野養豚の歴史は、上野さんのお父様の決断から始まりました。
みかん農家を目指していたお父様は、進路を畜産科へと変更。学校の先生から譲り受けた2頭の豚をきっかけに、養豚を始めます。
当初は自宅近くでの飼育でしたが、高速道路建設に伴い、1978年に現在の養豚場へ移転。みかんや米づくりも行いながら、経営のあり方を模索し、次第に豚中心の経営へと移っていきました。

「父はいつも、豚の健康や環境を最優先に考えていました。
その姿勢は、言葉というより、日々の行動として自然と伝わってきた気がします」
日常の中にあった養豚
幼いころから豚のいる環境で育った上野さんにとって、養豚は特別なものというより、生活の延長線上にありました。
一方で、理科や数学が得意で、将来は理系の道に進むことも考えていたといいます。成長するにつれ、肉を食べることや家畜を観察する経験を通して、少しずつ養豚への理解が深まっていきました。

「周りの友人の反応もさまざまでしたが、『すごいね』『おいしいね』と言われることもあって。
そうした何気ない言葉が、見え方を変えてくれたように思います」
出荷前に一頭ずつ豚を確認する父の背中。
その日常が、少しずつ養豚への関心へとつながっていきました。
大学での学びと、価値観を形づくった出会い
大学では畜産系の学科へ進学。
子豚や母豚の行動を観察し、体温や餌の摂取量、成長のペースを記録する日々を過ごしました。
「温度や湿度、餌の量を少し変えるだけで、豚の様子が変わる。
数字だけでは見えない部分を感じ取ることの大切さを学びました」
大学在学中、アルバイトとして働いた農場で、現在の妻・淳子さんと出会います。
サラリーマン家庭で育ち、幼いころからリスやうさぎなどの動物と暮らしてきた淳子さん。
動物が好きだったことがきっかけで、畜産の道を選びました。
「妻や、最初に勤めた農場の方々の姿勢から、
豚を“管理する対象”ではなく、“ひとつの動物”として見る感覚を学んだ気がします」

答えがないと思っていた動物の世界。
けれど、向き合い方次第で、豚は行動や変化として反応を返してくれる。
その積み重ねが、上野さんにとっての指標になっていきました。
現場での経験が教えてくれたこと
大学卒業後は、東京近郊の農場で半年間勤務。
座学で学んだ理論を現場で試す中で、思い通りにいかない場面にも数多く直面します。
体調の変化、気温、餌、設備トラブル。
日々の小さな判断が結果につながることを実感しました。
その後、島根県の農場で修行。
設備は決して新しくありませんでしたが、徹底した管理と観察で高い成績を出していました。
「環境のせいにせず、今ある条件でどう工夫するか。
その姿勢は、今も自分の基準になっています」
経営と飼育へのこだわり
上野さんにとって養豚は、命を育てる仕事であると同時に、日々の選択の積み重ねでもあります。
「続けていくためには、現実的な視点も欠かせません。ただ、効率だけを優先したくはないとも思っています」
飼育環境の管理はもちろん、特に大切にしているのが飼料です。
上野養豚では、市販の配合飼料は使用していません。

仕入れているのは、丸粒のとうもろこし。
それを豚の日齢や状態に合わせて、農場内で粉砕し、配合しています。
「農場で粉砕することで、酸化をできるだけ抑えられるんです。
できたての飼料は風味もよく、豚の食いつきも違います」
粉砕から配合までを自分たちの手で行うことで、飼料の状態を細かく把握できる。
その日の気温や豚の様子を見ながら微調整を重ねることが、結果的に豚の負担を減らすことにもつながっています。
「何を食べて育つかは、豚にとって大きな要素ですから」
温度や湿度、空気の流れと同じように、飼料もまた、日々向き合い続ける対象のひとつです。
これからの養豚を見つめて
「家業だからといって、自分たちの子どもに継いでほしいと思っているわけではありません」
上野さんはそう話します。
養豚は、誰か一人のものではなく、多くの先輩たちが積み重ね、つないできた仕事。
だからこそ、自分たちの役割は“次の世代に渡すこと”ではなく、業界として続いていく土台を整えることだと考えています。
「若い養豚家が、やりがいを感じながら、楽しんで、そして経済的にもきちんと成り立つ。
そんな仕事として養豚が続いていってほしい。そのために、自分たちも現場でできることを続けていきたいんです」

日々、豚と向き合い、改善を重ねること。
それは自分たちの農場のためだけでなく、養豚という仕事そのものを、少しでも前に進めることにつながっています。
上野養豚の歩みは、家族の歴史と個人の選択、そして日々の積み重ねから生まれています。
静かに、確かに。
今日も豚舎には、変わらない一日が流れています。

株式会社上野養豚
上野活樹、淳子
所在地:長崎県大村市今村町2655
HP:https://www.uenoyoton.com/
Instagram:@uenoyoton
X:https://x.com/uejun_pig







