食べてほしいもの2026.03.28
洋食から和食を経て辿り着いた至極の一杯。鶏白湯ラーメン誕生秘話|多々樂(たたら)粒崎弘志さん

豊かな自然と温かい人情が残る町、東彼杵町(ひがしそのぎちょう)。
この小さな町で、長崎県内でも珍しい「鶏白湯ラーメン」を提供し、連日多くの人を虜にしているお店があります。それがラーメン店「多々樂(たたら)」です。
今回は、地元出身であり、多彩なジャンルの料理人として腕を磨いてきた店主・粒崎弘志さんにインタビューを実施。波瀾万丈な下積み時代から、コロナ禍でのラーメン開発、そして地域や一杯のラーメンにかける想いまで、じっくりとお話を伺いました。
フリーターから料理の世界へ。様々なジャンルを渡り歩いた下積み時代
東彼杵町で生まれ育った店主の粒崎さん。23歳頃までは地元のスーパーや飲食チェーン店(リンガーハットなど)でフリーターとして働いていました。
料理の世界へ本格的に足を踏み入れたのは、知人の紹介がきっかけでした。
現在「多々樂」が店舗を構えているこの場所は、昔ながらのハンバーグやオムライスを提供する洋食店があり、粒崎さんはそこで働き始めます。しかし、入社からわずか3ヶ月で当時のマスターが倒れてしまうという予想外の事態に見舞われました。
その後、マスターがかつて修行をしていた佐世保のレストランを紹介され、粒崎さんは佐世保へと移住します。そこから本格的な料理人としてのキャリアが幕を開けました。
レストランで約5年間腕を磨いた後は、老人ホームでの給食調理、古民家レストラン&カフェ、大衆居酒屋、そして佐世保のカフェで2〜3年と、実に幅広いジャンルの現場を経験。洋食、和食、大量調理、カフェメニューと、様々な厨房を渡り歩いたこの「フラフラとしていた」とご本人が笑う時代こそが、後のラーメン作りに生きる確かな技術を育みました。
導かれるように地元・東彼杵で独立。コロナ禍が変えた運命

30歳を過ぎた頃、漠然と「いつかは自分の店を持ちたい」と独立を意識し始めた粒崎さん。
佐世保と地元・東彼杵の双方で物件を探していたところ、かつて自分が料理の道を歩み始めた「あの洋食店のあった場所」が空き店舗になっているという知らせを耳にします。
「絶対に地元でやりたいという強い意志があったわけではないですが、縁があったこの場所が空いていたから」と、自然な流れで地元での独立を決意。
オープン当初はラーメン店ではなく、「ダイニングバー」としてスタートを切りました。しかしその後、新型コロナウイルスの影響で夜の客足が遠のき、厳しい状況に直面します。

ですが、この「ぽっかりと空いた時間」が粒崎さんの運命を大きく変えることになります。
「夜が全然ダメだったから、売れるものを」と考えた粒崎さんは、それまで時々まかないで作る程度だったラーメンの試作に本格的に没頭し始めました。試行錯誤を繰り返すうちに、「やればやるほどラーメン作りにハマっていった」と語ります。
県内でも希少な「鶏白湯」。妥協なきスープと波佐見のストレート麺
「多々樂」の看板メニューは、長崎県内でも大村と東彼杵の2軒ほどしか提供していないという珍しい「鶏白湯(トリパイタン)」です。
スープは「ありたどり」の鶏ガラをベースに、イワシとサバの節を少しブレンド。魚介(節)の風味が強すぎず、絶妙なバランスを保つように丁寧に仕上げられています。
麺にも並々ならぬこだわりが詰まっています。隣町・波佐見町にある「水谷製麺」に特注し、全粒粉を練り込んだこだわりの麺を使用。スープとの絡みや全体のバランスを考慮し、なんと7〜8回もの試作とやり取りを重ねて完成した自信作です。
「最後は何度もやり直しをお願いして申し訳なかったけれど、全粒粉の香りが強すぎて日本蕎麦のようにならないよう、絶妙な配合を追求しました」と、職人としての妥協のなさが伺えます。
特産品「そのぎ茶」を使った特製つみれ!地元愛が光るアクセント

「多々樂」のラーメンには、もう一つ見逃せないポイントがあります。それが、トッピングの「鶏のつみれ」です。
なんとこのつみれには、地元・東彼杵町の特産品である「そのぎ茶」が練り込まれています。こってりとした鶏白湯スープの中で、お茶の風味がハーブのように爽やかに香り、絶妙なワンポイントアクセントとして引き立っています。
「スープや麺にお茶を練り込むことも考えましたが、日常的に食べるラーメンとしてはキャラクターが強くなりすぎると思い、つみれに合わせました」と粒崎さん。
様々な料理を経験してきたからこその、足しすぎないバランス感覚がこの一杯に凝縮されています。また、チャーシューは低温調理でしっとりと仕上げられており、これまでの幅広い料理経験の技術が随所に活かされています。
現場の男性から家族連れまで。温かい東彼杵という町の魅力

「多々樂」には、連日幅広い層のお客様が訪れます。平日のランチタイムは、現場作業の方や会社員などの男性客が8〜9割以上を占め、半数以上が町外から足を運んでくれるそうです。
一方で週末になると客層は一変し、子供用の食器が用意されており、ベビーカーのままでも入店できるため、家族連れで賑わう温かい空間となります。
お店がある東彼杵町について粒崎さんは、「小さな町なので色々な人との距離が近く、町全体が学校の1つのクラスみたいな感じの街」と表現します。
最近では「きのくに学園」のようなフリースクールに子供を通わせるために移り住んでくる移住者も増え、仕事でも暮らしでも、自分の理想を追求する人々が集まる活気ある町になりつつあります。
これからの「多々樂」が目指すもの。こだわりの一杯をぜひその舌で!

最後に、今後の目標を伺いました。
「今は鶏白湯が中心ですが、今後はその鶏ベースに豚を少し入れてみたりと、いろんなラーメンを試してみたいです」と語ります。
「パスタなら太い麺には濃厚なソース、細い麺にはオイル系といったセオリーがありますが、ラーメンにはそれがありません。セオリーがないからこそ、一発で全然違う味になるのがラーメンの面白いところです」と、すっかりラーメンの奥深さに魅了されていることが伝わってきます。
読者の皆様へ向けたメッセージをお願いすると、「一生懸命作っているので、ぜひ食べに来てください」と力強く、かつ温かい言葉をいただきました。
様々な料理ジャンルを経て、コロナ禍という逆境から生まれた「多々樂」の鶏白湯ラーメン。東彼杵町ののんびりとした空気感とともに、店主の情熱とこだわりが詰まった至極の一杯を、ぜひあなたも味わいに訪れてみてください。
多々樂
粒崎弘志
住所: 長崎県東彼杵郡東彼杵町蔵本郷1839
営業時間:
ランチ 11:30~14:30
ディナー 18:00~20:30(スープ売り切れ次第終了)
火曜日定休・不定休
HP:https://www.nagasakiramen-tatara.com/
Instagram:@tatarasonogi2019
Facebook:https://www.facebook.com/p/tatarasonogi2019-100069327456962/






