行ってほしいところ2025.12.12
料理人からレザークラフト職人へ、「世界に一つ」の温もりを刻む|Rezzedout 永島正樹さん

長崎県佐世保市万津町。海風の通り抜けるこのエリアに、ひときわ存在感を放つ小さな革工房があります。店の名は「Rezzedout(レズアウト)」。
一歩足を踏み入れると、革の香りと、金属が打ちつけられる心地よい音が響きます。棚に並ぶのは、財布やバッグ、キーケースなど、すべてがハンドメイドの一点もの。繊細さと力強さを併せ持つ彫り模様(カービング)には、作り手の想いが深く刻まれています。
今回は、異色の経歴を持つ職人・永島さんに、レザーづくりを始めたきっかけや創作への想い、そして“魂を込める”ものづくりの哲学について伺いました。
「料理人の手」が導いた新たな道
永島さんが革と出会ったのは、決して計画的なことではありませんでした。
「料理人をしていた頃、正直もう飽きていたんです。15歳から28歳まで、約13年間料理の世界にいたんですが、何か別のことを始めたくなったんですよね。」
そんなとき、偶然目にとまったのが“レザークラフト”という言葉でした。
「特別なきっかけがあったわけじゃないんです。ただ“何か作ってみたい”と思って調べていたら、革細工のキットが出てきて。試しに作ってみたらできたんです。それで、“あ、自分でもできるかもしれない”って。」
もともと手先が器用だった永島さん。その器用さは、着物などを仕立てる和裁師だった母親譲りかもしれない、と語ります。
「母も手仕事の人だったので、その血を受け継いでいるのかもしれませんね。」
そこから独学で本を読み漁り、試作を重ねる日々が始まります。
「習いに行ったこともないし、誰かに弟子入りしたこともありません。完全に独学です。どんどんのめり込んでいきました。」
始めてからわずか2年後、永島さんは自身のブランド「Rezzedout」を立ち上げます。
「万物に魂を吹き込む」——ブランドに宿る哲学

Rezzedoutのロゴには、ネイティブアメリカンのシンボルがあしらわれています。それは、ブランドの根幹となる思想「万物に魂を吹き込む」から来ています。
「ネイティブアメリカンの“すべてのものに魂が宿る”という考え方に惹かれました。だから自分も、作るもの一つひとつに魂を込めたい。手で作るからこそ、気持ちが入るんですよね。」
財布やバッグといったアイテムに共通しているのは、どれも“持つ人の時間とともに変化していく”ということ。
「うちで使っている革は、使い込むほどに色が深くなって、キャラメルみたいな飴色に変わっていくんです。だから、長く使ってもらうほど味が出る。お客さんが育ててくれる作品なんですよ。」
大量生産では決して生まれない“ひとつだけの個性”。永島さんが信じるのは、機械ではなく“人の手”が生み出す温もりです。
緻密な彫り模様——シェリダンスタイルの世界
Rezzedoutの代表的な技法が「カービング(彫り物)」です。革の表面に刻まれる緻密な模様は、まるで彫刻のよう。「うちは“シェリダンスタイル”っていう技法を使っています。アメリカのシェリダン地方で生まれたもので、唐草みたいなツルがくるくる繋がって、その中心に花がある。全体で見たときに“きれいな丸”に見えるのが、上手い人の証拠です。」

フルオーダーの場合は、図案を描き、何度も相談しながら形を決めていく。一方、セミオーダーや既存デザインの依頼では、下書きなしで直接革に彫ることもあるといいます。
「世界にひとつしかない。それがハンドメイドの魅力です。だからこそ、長く大事に使ってもらいたい。そういう思いで、ひとつひとつ作っています。」
同じ模様でも、染め方や刻印の力加減ひとつでまったく違う表情になる——。そこにこそ、ハンドメイドの醍醐味があると語ります。
「ヨロズロック」という場所の力
Rezzedoutの店舗があるのは、佐世保市万津町の「ヨロズロック(万津ロック)」と呼ばれるエリア。近年、個人経営のカフェやショップが次々とオープンし、若い世代を中心に注目を集めています。

「この通りは、個性的なお店ばかりで統一感がない。でもそこがいいんですよ。それぞれが自分の好きな世界を大事にしてる。そんな雰囲気が好きです。」
永島さん自身は佐世保出身ではなく、結婚を機にこの地へ移住しました。
「もともと佐賀の出身なんですが、佐世保って街はすごくポテンシャルがあると思います。おしゃれな店も増えてきたし、もっと活気づいていってほしいですね。」
ヨロズロックの仲間たちとともに、この街を面白くしていく——。そんな小さな連帯感が、Rezzedoutのものづくりにも通じています。
長く使われる相棒を作りたい
独学で始めたレザー制作も、気づけば9年目。店は9月に8周年を迎え、地域のファンも着実に増えています。
人気商品であり、いちばんのおすすめなのがやはりお財布。客層は幅広く、30代から50代の男性のお客さんが特に多いそうです。
「革って生きてるから、使う人のクセとか手の脂とかで、全部違う表情になるんです。」
それはまるで、時間とともに人と育つ“相棒”のよう。永島さんが作るのは、単なる“モノ”ではなく、使う人の人生に寄り添う存在です。大量生産でも、流行でもなく。ひとりの職人が手を動かし、革に想いを吹き込む。その姿勢こそが、Rezzedoutの存在意義なのかもしれません。

手間を惜しまないからこそ生まれる“温度”
永島さんの生き方、そしてRezzedoutの営みには、これからの時代を生きる私たちにとっても大切なヒントがあります。
効率やスピードを追うのではなく、手を動かし、時間をかけて、自分のペースで形にする。一見遠回りに見えるその選択が、じつは“本質的な豊かさ”につながっているのかもしれません。

革を刻み、磨き、仕上げる——。その一つひとつの作業の中に、作り手の“魂”が確かに息づいています。
永島さんが描くのは、“長く愛されるひとつを生み出すこと”。その静かな情熱は、佐世保の街で今日も変わらず、革の香りとともに息づいています。

Rezzedout
永島 正樹
所在地:長崎県佐世保市木風町1370-73
HP:https://rezzedout.jimdo.com
Instagram:@leathercraft_rezzedout
Facebook:https://www.facebook.com/leathercraft.rezzedout/?locale=ja_JP






