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おすすめしたいもの/体験してほしいこと2023.04.26

現場の苦労を無駄にしたくない|元長崎県工業技術センター専門研究員 晦日 房和さん/大村パールハイム 児玉 尚史さん 山田 瑞姫さん

古来より人々を魅了し続けてきた真珠。かつては偶然に貝の体内で生成されたものを見つけることが唯一の獲得手段だったため、非常に希少価値が高くごく限られた人しか身につけることができませんでした。しかし19世紀後半、養殖した貝の体内で人工的に真珠を生成する技術が確立されると、多くの人々が真珠を手にすることができるようになったのです。

真珠貝の養殖といえば三重県が有名ですが、実は長崎県の方が生産量は多く、2021年度にはそれまでトップだった愛媛県を抑え生産量全国一になりました。養殖に伴い大量に廃棄される貝殻に着目したのが、元長崎県工業技術センター専門研究員で現在は大村市議会議員を務める晦日(みそか)房和さん。開発したのは真珠の成分を含む保湿クリーム「パール美珠」です。

しかし、どうやって貝殻から保湿クリームを作り出すのでしょう? また真珠の成分にはどのような効果があるのでしょう? 開発者の晦日さんと、現在「パール美珠」の製造販売を行っている大村パールハイムの児玉さん、山田さんにお話を伺いました。

ずっと実験室にいたらできなかった

科学者の視点から開発の経緯を語る晦日さん

長崎県工業技術センターの専門研究員だった晦日さんは、視察に訪れた真珠貝の養殖場で養殖にはものすごい労力がかかること、そして苦労して育てた貝のうちわずか10%ほどからしか上質な真珠は取れないことを目の当たりにします。

「手間暇かけて作っているから『生物が作る宝石』という価値が出てくるんだと分かりました。そして、これだけ手間をかけて育てるなら売り物にならなかった貝も最後まで有効利用したいと考えたんです。」

研究対象にしたのは、真珠生産を終えた後の貝殻。長崎では年間およそ年間500tの貝殻が、利用されずに廃棄されていました。実は貝殻にも、真珠と同じ成分が含まれていることに着目したのです。

真珠の主成分は炭酸カルシウムという物質ですが、それ以外に数%だけ「タンパク質」が含まれています。その成分を分析したところ保湿や美白の作用があることが分かり、これを利用した「美容製品」の開発が晦日さんの目標になりました。

「もしずっと実験室にいて、現場を知らなかったらできなかったと思います。」

養殖の現場を知っていたからこその「ヒラメキ」が、商品開発のスタートだったのですね。

貝殻に隠れた「真珠層」

大村パールハイムでの作業風景。長年の経験によって培われた職人技で、貝殻が加工される。

貝殻から保湿クリームを作るというプロジェクト、最初の障壁は「貝殻から真珠の成分を取り出す」ということ。県工業技術センターにはそのための技術や設備はなく、晦日さんは外部の協力を仰ぐことになります。そこで白羽の矢が立ったのが、大村市で長年真珠貝殻の加工を行っていた 社会福祉法人 「大村パールハイム」でした。

熟練の技で貝殻表面の「稜柱層」と呼ばれるザラザラした部分を削ると、光沢のある「真珠層」が現れるのです。「自分達としては普通の技術なんですが、他から見ると特殊技術だったんですね。」と職員の児玉さんは語ります。

真珠の成分が入ったクリームが完成

貝殻表面の「稜柱層」を削ると、虹色に輝く「真珠層」が現れる。(写真は「マベ貝」)

一つの課題をクリアしても、晦日さんの前には難題が次々と現れます。

続いての問題は「どのようにして細かい粉末にするか」でした。粉末の粒度が荒いとザラザラしてしまい、つけ心地の良いクリームにはなりません。目標の粒度1ミクロンにするためには「ナノジェットミル粉砕機」という特殊な装置が必要なのですが、県内にはなかったのです。

県外の業者に外注したところ、100gの粉末を作るためにかかった経費はなんと10万円。商品化しても採算が合うのだろうかという不安がよぎりますが、晦日さんはこの粉末で試作品を作り、同僚の奥様達に試してもらうことにしました。

すると「肌がしっとりした」と評判は上々。晦日さん自身も使ってみたところ、非常に良いものだと実感することができました。しかし晦日さんにできるのはここまで。公的な研究機関である県工業技術センターでは、作ったものを「売る」ことはできないのです。

「長崎らしい」クリームへと進化

真珠の成分と椿油を含有した”PEARL BIJU LATEST”(大村パールハイムHPより引用)

晦日さんの開発した「真珠層微粉末を含む保湿クリーム」の販売元として名乗りをあげたのは、その開発にも携わってきた大村パールハイムでした。しかし、真珠貝殻の加工を主に行ってきた大村パールハイムにとって、化粧品の製造を手がけることは未知の領域。

そこで発想を転換してクリームに長崎特産の椿油も加えることにし、椿油を使った化粧品を製造する「株式会社舞椿」へと協力を依頼します。そうしてできた「真珠×椿油」という長崎らしさの詰まったクリームを85人のモニターに使ってもらったところ非常に評価が高く、2011年9月に晴れて「パール美珠」と名付けられて販売が始まったのです。真珠と椿油の色が合わさりほのかに黄味がかったクリームは、保湿効果も掛け合わされており、瞬く間に人気商品となりました。

挑戦はまだまだ続く

大村パールハイムの職員でパール美珠担当の山田さんは実際に商品を使う女性目線で、製品のリニューアルへ取り組んだ。

発売から10年が経過した2022年、パール美珠は「PEARL BIJU LATEST(パール ビジュ ラテスト)」という製品へとバージョンアップしました。開発担当の山田さんは、その際に「女性目線の使いやすさ」を意識したと言います。

「以前の商品は蓋を開け指でクリームを取るタイプだったのですが、触らずに使えるボトルへと容器を変更しました。カバンに入れて持ち歩きやすいですし、最後まで空気に触れないため、酸化しにくいというメリットもあります。」 

コロナ禍によってマスク生活が日常となり、ファンデーションよりも基礎化粧品である保湿クリームへのニーズが高まる現在。一度使えば良さは分かるので、幅広い年代の方へ手に取って欲しいそうです。

社会福祉法人大村パールハイム

長崎県大村市木場2丁目463-1
TEL:0957-53-6709

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