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食べてほしいもの2026.09.22

小浜の海と夕日を見渡す畑から。地域の繋がりと手作業で育てるワイン|小浜温泉ワイナリー 川島 貴宏さん


長崎県雲仙市、小浜温泉。

橘湾を望むこの温泉街で、地元のブドウや柑橘を使ったワインを造っているのが、小浜温泉ワイナリーの川島貴宏さんです。

料理人からワイン造りへ。川島さんが小浜で紡ぐ、食と土地の物語を伺いました。

中学生で決めた「料理人になる」。きっかけは『ミスター味っ子』


川島さんは小浜町で生まれ育ち、中学卒業までこの町で過ごしました。

料理人を目指すきっかけになったのは、意外にも一冊の漫画。

『ミスター味っ子』でした。

「作品中に出てくる、ものすごくおいしそうな料理を見て、自分でも作ってみたいと思ったんです」

中学生の頃には、すでに料理人になることを決めていた川島さん。

高校へは進まず、早く料理の現場に出たいと考え、周囲を説得して大阪の料理専門学校へ進みました。

最初に目指したのはフランス料理。

しかしながら、ここで川島さんらしい転機が訪れます。

「フランス語が難しくて(笑)。イタリア語はローマ字読みなので分かりやすかったんです。それに当時、ティラミスがすごく流行っていて」

そんなキッカケから、フランス料理からイタリア料理へ。

大阪や神戸などで料理人として経験を積んでいきました。

イタリアで出会った「ワイン造り」


料理人として働く中で、川島さんの人生を大きく変える出来事がありました。

それが、ワインとの出会いです。

イタリアへ渡り、ワイナリーレストランで働く機会を得た川島さん。

9月から10月にかけてのブドウの収穫期には、料理だけでなく、畑での収穫や醸造にも携わりました。

「そこで初めて、ワインができるまでの工程を経験しました。それがワイン造りを始める最初のキッカケです」

帰国後も、料理人として自分の店を営みながら、毎年のように大阪のワイナリーへブドウの収穫や醸造の手伝いに通いました。

朝からブドウを収穫し、醸造作業を手伝って、そのまま夜の店の営業へ。

料理とワイン。二つの世界を行き来する日々の中で、川島さんの中に一つの考えが芽生えていきました。

「日常の食卓にワインを」

高級な料理のためだけではなく、普段の食事と一緒に楽しめるワイン。

それが、今の小浜温泉ワイナリーの原点になっています。

故郷・小浜へ。「料理」ではなく「ワイン」という選択


2020年4月。

川島さんは、長年暮らした大阪を離れ、故郷・雲仙市小浜へ戻ってきました。

「いつかは小浜に戻って、自分で料理を作って振る舞う店をやりたい」

そのような考えは、以前から持ち続けていたといいます。

ところが、故郷で何をするかを考えたとき、川島さんが選んだのは料理店だけではありませんでした。

「料理をすることも考えていましたが、この場所でやるなら、ワインのほうが独自性があるんじゃないかと思ったんです」

小浜には、温泉があり、海があり、豊かな食材があります。

そして長崎には、みかんをはじめとするさまざまな果実があります。

ならば、長崎の食材を使い、長崎の料理に合うワインを造る。

料理人として培ってきた経験と、イタリアで学んだワイン造りが、ここで一本につながりました。

「魚介や家庭料理と楽しむ、軽やかなワインを」


川島さんがワイン造りで大切にしているのは、料理との相性です。

特に意識しているのが、日本の普段の食卓。

「日本の日常の料理に、重くて渋い赤ワインは合わないと思っています」

もちろん、肉料理と赤ワインという組み合わせもあります。

けれど、海が目の前にある小浜の食卓には、魚介類が並ぶことも多い。

刺身や焼き魚、揚げ物、醤油を使った家庭料理。

そんな料理に合わせるなら、もっと軽やかで、食事を邪魔しないワインがいい。

料理人として数多くの料理に触れてきた川島さんだからこその発想です。

「夕食に一本」

特別な日だけではなく、普段の食事の中にワインがある。

それが川島さんの目指すワイン造りです。

みかんを「甘いお酒」にしない。食事に合う、辛口みかんワイン


そんな考えから生まれたのが、みかんを使ったワインです。

長崎といえば、身近な果物の一つがみかん。

しかし、川島さんが造るみかんワインは、一般的にイメージされる甘い果実酒とは少し違います。

「からくち(辛口)」です。

「みかんワインは、甘く仕上げるものも多いですが、うちは食事に合わせることを考えて、辛口にしています」

爽やかな柑橘の香りと酸味。

その特徴を生かしながら、食事と一緒に楽しめる味わいを目指しています。

例えば、刺身。

レモンを絞って食べる唐揚げや、きんぴらごぼう、ブリ大根といった、醤油を使った家庭料理。

一見すると「ワインに合うの?」と思うような料理との組み合わせにも、新しい発見があります。

特に川島さんが感じているのが、魚介との相性です。

柑橘の爽やかさが魚の風味を引き立て、食事をすっきりと楽しませてくれる。

「ワインは洋食と合わせるもの」というイメージを、いい意味で裏切ってくれる一本です。

一粒一粒を人の手で。地域の人たちと育てるワイン


ワイン造りは、川島さん一人の力だけではできません。

小浜で畑を始める際には、同級生やその家族など、地域の人たちから畑を借りることができました。

そしてブドウの収穫期には、地域の人やSNSを通じて知った人たちが畑に集まります。

収穫したブドウは、そのままワインになるわけではありません。

傷んでいる粒や状態の悪いものを一つひとつ取り除く「選果」という大切な作業があります。

大量のブドウを前に、何人もの人が集まり、会話をしながら一粒ずつ確認していく。

機械に任せるのではなく、人の目と手を使うからこそできる丁寧な仕事です。

そして、その作業に参加した人たちにとっては、自分が関わったブドウが、やがて一本のワインになる。

「自分が選果したワインだから」と、完成したワインをきっかけに、再び小浜を訪れる人もいるそうです。

ワインが、人と人をつなぐきっかけにもなっています。

「長崎ヌーヴォー」に込められた、土地の味

夏から秋にかけて収穫されたブドウは、仕込みを経て、新しいワインになります。

その年のブドウで造った新酒を楽しむ「長崎ヌーヴォー」。

収穫から仕込み、そして完成まで。

その年の気候や畑の状態を感じられるのも、新酒ならではの楽しみです。

ワインというと、何年も寝かせて味わうものというイメージもあります。

けれど、新しくできたばかりのワインを、その年の料理と一緒に味わう。

そこには、地域で造るワインならではの面白さがあります。

自然との戦いも、ワイン造りの一部

もちろん、畑仕事には楽しいことばかりではありません。

夏の暑さの中での作業。

ブドウを狙うカミキリムシやコガネムシなどの害虫。

大切に育てたブドウの木が傷められることもあります。

さらに、これまでには苗木や支柱用のワイヤーが盗まれるなど、心ない被害に遭ったこともありました。

「人間や害虫が一番大変ですね(笑)」

そう笑いながらも、害虫の痕跡を見つければ、一本一本確認して対処していく。

華やかなワインの裏側には、そんな地道な作業があります。

だからこそ、収穫を迎えたときの喜びも大きい。

そして、その畑を一緒に支えてくれる人たちの存在が、何よりの力になっています。

畑から見える、小浜の海と夕日


川島さんが小浜で好きなものを尋ねると、「海」と「夕日」という答えが返ってきます。

特に雨や台風が過ぎた後、空気が澄んだ日の夕焼けは格別だそうです。

高台の畑から見渡す小浜の海。

その向こうに沈んでいく夕日。

料理やワインだけではなく、川島さんが造っているのは、そんな小浜の風景を感じられる時間なのかもしれません。


ワインのラベルにも、海や夕日のイメージが取り入れられています。

一度故郷を離れ、イタリアまで渡った川島さん。

外から小浜を見た経験があるからこそ、改めて感じる故郷の美しさがあります。

みかんの次は、いちご、びわ。季節ごとに広がる果実の可能性

小浜温泉ワイナリーの特徴は、ブドウだけにこだわらないこと。

ブドウの仕込みが終われば、次の季節の果実へ。

冬はみかん。

そして春には、いちご。

その先には、びわなど、長崎ならではの果実も視野に入っています。

実は、いちごのワイン造りは以前にも挑戦したことがありました。

ところが、いちごは酸味が強く、発酵させると酸っぱさが際立ち、思うような味にならなかったそうです。

一度は断念したものの、その後、他のワイナリーで新たなヒントを得ました。

ブドウと組み合わせて発酵させるという方法です。

「今なら、もう一度挑戦できるかもしれない」

そう話す川島さん。

失敗しても、そこで終わりではない。

新しい技術を学び、また試してみる。

その繰り返しから、次の一本が生まれていきます。

小浜の食卓から、長崎の新しいワイン文化へ


「ワインに詳しくない人にも、気軽に楽しんでほしい。」

特に、赤ワインの渋みが苦手でワインから遠ざかってしまった人にこそ、軽やかなワインを一度試してほしいと川島さんはいいます。

海と温泉、畑と果実、そして地元の料理。

そこから生まれるのは、特別な日のためではなく、今日の食卓に寄り添う「日常のワイン」です。

日本酒や焼酎の文化が根付く長崎で、地元の食材や料理に合う新しい選択肢を。

小浜で造られたワインを片手に、長崎の食と風景を楽しむ。

そんな時間が、ここから少しずつ広がっていきそうです。

Rezzedout

小浜温泉ワイナリーshop&restaurant小浜ワイン食堂
住所:長崎県雲仙市小浜町北本町862
営業時間: 18:00〜23:00 ※完全予約制
休館日: 不定休
TEL: 090-6964-5748
公式通販サイト: https://obamawinery.base.shop/
Instagram: @obamaonsenwinery
小浜ワイン食堂: https://tabelog.com/nagasaki/A4203/A420301/42012699//

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