会ってほしいひと2026.02.28
保健室から生まれた「LSTルーム」という居場所|小浜高校 石山麦穂先生

小浜高校の校舎の一角に、生徒たちがふらりと立ち寄ることのできる、少し不思議な空間があります。
その名は「LSTルーム」。
木目調の家具ややわらかな色合いに包まれた室内は、学校の中にありながら、どこかカフェのような落ち着いた雰囲気をまとっています。
この場所は、もともと保健室の隣にあった「相談室」を改装して生まれました。
そして、この空間づくりを主導したのが、小浜高校の養護教諭(保健室の先生)である石山先生です。
物置だった相談室から、居場所づくりの拠点へ
「小浜高校に来て3年目になります。赴任した当初、保健室の隣に相談室があったのですが、ほとんど物置のような状態でした」と語る石山先生。
段ボールや備品が積まれ、必要なときだけ使われる部屋。
その様子を見て、石山先生は「空間としても、役割としても、もったいない」と感じていたと言います。

「1年目は特に何もできなかったのですが、後半になって校長先生から『保健相談室をきれいにしてほしい』というお話をいただきました」
そのとき、石山先生は思い切ってこう尋ねました。
「『好きにしていいですか?』と聞いたら、『いいよ』と(笑)。それなら、と一気に作り変えることにしました」
こうして、無機質だった相談室は、カフェのような空間へと姿を変えていきました。
保健室・相談室は「行きにくい場所」になっていないか
石山先生が空間づくりに込めた一番の思いは、「ハードルを下げること」でした。
「保健室や相談室って、生徒にとっては『何かあったときに行く場所』『問題がないと行けない場所』になりがちです。そのことがずっと引っかかっていました」
赴任当初、石山先生自身も、いわゆる“普通の保健室業務”を中心に仕事をしていました。
相談室は、スクールカウンセラーとの面談や、トラブルが起きた際の話し合いに使われる程度で、日常的に立ち寄る場所ではありませんでした。
何もないのに行くと、逆に『どうしたの?』と聞かれてしまう。そう思うと、足が遠のいてしまいますよね。
「理由がなくても行ける場所」をつくりたい
カフェという発想の背景には、石山先生自身の体験がありました。
「以前、生徒から『保健室とか相談室って、理由がないと行けないじゃん』と言われたことがあって。改めて考えると、本当にその通りだなと思いました」
さらに、先生自身が悩みを抱えたときに相談に行く、お好み焼き屋の存在も大きなヒントになったと言います。
「そのお店の女主人さんが、とても話しやすい方なんです。正式な相談機関だと、構えてしまって言葉が出なくなることもありますが、気軽な場所だと自然と話せる。そういう空気感を学校の中につくれたらと思いました」

相談すること自体が目的ではなく、立ち寄れる 場所。
LSTルームは、そんな発想から生まれました。
生徒が主役になることで、空間は動き出した
しかし、空間を整えただけでは、すぐに生徒が集まるわけではありませんでした。
「最初は、ほとんど誰も来ませんでした。やっぱり、場所を作るだけでは足りなかったですね」
そこで取り入れたのが、保健委員の生徒に「カフェスタッフ」として関わってもらう仕組みです。

「週に1回、スタッフとして入ってもらいました。すると、その友達が遊びに来たり、『今日は〇〇があるから』と理由ができたりして、少しずつ人の流れが生まれていきました」
昼休みや放課後にはフリースペースとして開放し、教室で食事をするのが苦手な生徒が昼食をとったり、放課後に保護者の迎えを待つ場所として使われたりと、利用の仕方は自然に広がっていきました。
「相談室」から「LSTルーム」へ――名前が持つ力
「“相談室”という名前そのものが、行きにくさを生んでいると感じていました」
そこで、生徒に2択のアンケートを取り、新しい名前を決めることにしました。
選ばれたのが「LSTルーム」です。
「WHOが提唱している『ライフスキルトレーニング(Life Skills Training)』の頭文字です。生活能力や生きる力を、ここで少しずつ育てていけたらという思いを込めました」
この「生きる力」を育むための仕掛けは、部屋の空間づくりにも徹底されています。
石山先生は、机の並べ方や使用する食器一つひとつにもこだわり、学習机 が並ぶような「学校」っぽさを排除しました。一方で、「家」のようにただ無防備にくつろぐだけの場所にもしていません。
社会性を身につける一環として、生徒自身がその場に合った振る舞いができるよう、適度な緊張感と安心感が同居する空間を目指しているのです。

入口に掲げられた緑色のうさぎの看板は、生徒がCanvaを使ってデザインしたものです。
この看板一つとっても、「生徒が関わる場所」であることが大切にされています。
数字が示した、確かな変化
LSTルームの誕生は、保健室そのものにも影響を与えました。
「私が赴任する前、保健室の年間利用件数は335件でした。それがLSTルームを立ち上げた翌年には900件を超えました」

この数字には、LSTルームの利用者数は含まれていません。
それでも、「行きやすい場所」が一つできたことで、学校全体の空気が変わり、保健室への心理的ハードルも下がったのではないかと石山先生は感じています。
「私がいなくても回る場所」を目指して
一方で、今後に向けた課題も見えています。
「最初は私が全部やっていて、『私の許可がないと使えない部屋』になってしまっていました」
今後は、石山先生が転勤しても続いていく、自走できる仕組みづくりを目指しています。
「今年は、他の先生にも当番として入ってもらっています。生徒が、私以外の先生とも自然に関われるようになるといいなと思っています」

誰か特定の人の場所ではなく、「みんなの場所」であること。
それがLSTルームの次の目標です。
生徒たちへ伝えたいこと
最後に、生徒たちへのメッセージを伺いました。

「学校がすべてではない、ということです。ここがうまくいかなくても、選択肢は他にもあります。学校 ここでの失敗が人生のすべてではない、ということを忘れないでほしいです」
石山先生という人
石山先生は、長崎県諫早市の出身です。
大学進学前にはデンマークへ留学し、その後、沖縄の大学へ進学しました。
「小さい頃は、一人でふらふらしているような子どもでした。周りに信頼できる大人があまりいなくて、モヤモヤを誰に話せばいいのか分からない、こじらせた思春期だったかもしれません」

教員としての原点は、特別支援学校での経験にあります。
「重度の障がいのある子どもたちが多い学校でした。最初は、自分のやりたいこととは違うと感じたこともありましたが、体を動かしたり、楽しみながら伝えることの大切さを学びました」
小浜という町の魅力
「小浜高校の生徒は、本当にピュアです。騙されないか心配になるくらい、素直な子が多いですね」
小浜の町については、自然と人の距離感を魅力として挙げてくれました。
「海も山もあり、Iターンの若い人も多くて活気があります。これからが楽しみな町だと感じています」
おすすめスポットは、日本一長い足湯「ほっとふっと105」。
「海を眺めながら足を温められるのが、とても気持ちいいです」
最近オープンしたカフェ「カイオン(海音)」も空間づくりの参考にしたため、印象に残っている場所の一つだそうです。
学校の中に、正解を求められない場所があること。
理由がなくても立ち寄れる空間があること。
LSTルームは、そんな“余白”を、静かに、そして確かに小浜高校にもたらしています。

長崎県立小浜高等学校
石山麦穂先生
所在地:〒854-0595 長崎県雲仙市小浜町北野623
Instagram:
@the_hoken_obm(小浜高校保健委員と養護教諭(石山先生)が運営するアカウント)
@uchi_hoken(石山先生が運営するアカウント)






