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おすすめしたいもの/体験してほしいこと/行ってほしいところ/食べてほしいもの2025.09.13

農園&カフェ経営で自然と人とのつながりを追求する挑戦|ブルーベリー農園代表 森山誠さん

長崎県諫早市。海と山に抱かれたこの小さな町に、音楽家から農園経営者へと転身したひとりの男性がいます。ブルーベリー農園「のんびり山」代表 森山誠さん。

森山さんの営む農園では、ブルーベリーの摘み取り体験や、築100年の古民家を改装したカフェ、通販でのスイーツ販売などを通じて、「自然と人が無理なくつながる場づくり」が行われています。

今回は、農園とカフェ経営への挑戦、自然と人をつなぐ事業づくりの想いをお伺いしました。

「やりたいことだけを、精一杯」——異色のキャリアが導いた場所

長崎市出身の森山さんは、20歳で音楽の夢を追って上京。ミュージシャン活動やイベント主催、三軒茶屋でのDJバーの店長など、多彩な経験を積みながら東京での日々を過ごしていました。

「ラップユニットを組んで、曲も作ってた。生活は大変だったけど、常にやりたいことはやってましたね」

転機となったのは、長野県原村で体験した山の暮らしと、2011年の東日本大震災。

自然の中で暮らす喜びと、都市生活への違和感。その2つが合わさり、「自然のそばで、やりたいことを自由にやって暮らしたい」との想いを強く抱くようになります。

その後、九州に戻り、出会ったのが現在の「のんびり山」の土地でした。

農園にたどり着くまでには意外なキャリアも経験しています。佐賀県の温泉地でホテルの立ち上げに関わり、支配人としての業務も担当。農業をやりたいという気持ちはずっとあったものの、なかなか踏み出せずにいた森山さん。そんなとき、ブルーベリー農園の引き継ぎの話が舞い込み、「これだ」と思い、迷わず飛びついたといいます。

DIYで作り上げた「居場所」

2017年に新規就農し、農園を再生しながら、2018年には築100年以上の古民家を改装したカフェスペースをオープン。

「最初はほぼ廃墟みたいな家で、床が抜けそうだった(笑)。でも、自分たちで塗って、作って、直して。ちょっとずつ整えていきましたね。」

森山さんの手仕事と、地元の大工さんとの協力で生まれた空間には、「手作り」ならではの温もりとストーリーが詰まっています。

「ブルーベリー探し」は、五感を開く自然体験

「のんびり山」の摘み取り体験は、ただ果実を採るだけではありません。木々の間を歩きながら、色づいた実を“探す”行為そのものが、「特別な体験」になるよう工夫されています。

採りやすい位置に実をそろえるのではなく、高い枝や地面近く、少し隠れた場所など、さまざまな位置に実がなるのが「のんびり山」の特徴。背伸びしたりしゃがんだりしながら、自分だけのお気に入りの実を見つける——そんな体験を、訪れた人たちは楽しんでいるそうです。

訪れる人の多くは、小さなお子さま連れの家族。そのほかにも、友人同士のグループやカップルなど、幅広い層が自然の中でのひとときを楽しみに訪れています。

2024年は7月25日〜8月24日まで体験期間を設け、午前・午後の部に加え、今年からは金曜限定でナイト営業(15:00〜19:00)も開始。仕事帰りの人も楽しめる時間帯です。

季節の恵みをぎゅっと詰めた、とくべつな商品

「朝採りしたブルーベリーをいったん冷凍し、その新鮮な果実を使ってジャムを手作りしています。」

スタンダードなタイプのほか、チョコと合わせたショコラジャムや、自家栽培のショウガを使ったジンジャーシロップなど、季節ごとのユニークな商品も展開中。搾りかすを乾燥させてドライジンジャーとして再利用するなど、素材を無駄なく活かす工夫もされています。

最近は、SNS「Threads」での発信にも力を入れており、そこから商品を知って注文してくれる人も増えているそうです。

ブルーベリーと向き合う、ていねいなまなざし

作業のひとつひとつにおいて、「自分たちが楽しいと思えるかどうか」を大事にしているという森山さん。無理をして嫌なことを続けるのではなく、その時の自分たちの状態に合わせて、できることを精一杯やる——それがのんびり山のスタイルです。「例えば、人が強いストレスを抱えたまま作物を育てていたら、きっとその影響が伝わってしまうと思うんです。だからこそ、自分自身をできるだけいい状態に保っていたい。」
そう語る言葉には、植物とまっすぐに向き合ってきた日々の積み重ねが感じられます。

そして試行錯誤の末、独自の「混合発酵製法」を開発。長い挑戦が実り、味と機能性のちょうど良い黄金バランスを実現し、いつでも美味しいお茶を届けられるようになりました。

地域とのつながりも、無理せず自然に

現在は、地域のフォトスタジオと協力して、「ブルーベリーの思い出」をテーマにした毎年恒例の撮影企画も行っています。

摘み取り体験に訪れた家族連れやカップルが、そのひとときを写真に残せるこの取り組みは、夏の農園をより特別な場にしてくれています。


今後の展望は「ブルーベリーのさらなる活用」

「ブルーベリーの葉っぱでお茶を出せるんですよね。 それがノンカフェインでポリフェノールとか、 栄養素も凄く高いんで、 そのお茶の商品化を進めていきたいです。」と森山さん。今後は、ブルーベリーのお茶の商品化に力を入れていきたいそうです。

また、観葉植物としてのブルーベリー苗木販売も準備中。見た目の美しさや季節ごとの変化も魅力の一つで、実を育てて食べる楽しみと、植物を世話する癒しの時間を両立できる提案です。農園の恵みを“持ち帰れる形”で届けることで、暮らしの中に小さな自然を取り入れてもらいたいという思いが込められています。


小さな農園から始まる、大きな循環

森山さんの生き方、そして「のんびり山」の営みには、これからの時代を生きる私たちにとって、大切なヒントが詰まっています。

大量生産でもない。利益至上主義でもない。そこにあるのは、“自然と調和しながら、自分のペースで暮らす”という、ごくシンプルだけれど難しい選択です。

「効率化」「スピード」「拡大」が求められる社会の中で、森山さんはあえてその逆を選びました。手間をかけること。回り道を恐れないこと。体験の密度や、お客さんとの“関係性”を大切にすること。

ブルーベリーを育て、空間を整え、来てくれる人を笑顔にする――その日々の営みこそが、森山さんにとっての“豊かさ”なのです。そんな「等身大のしあわせ」の実践例として、森山さんの存在は、これからの暮らし方や働き方に迷う誰かの背中を、そっと後押ししてくれるに違いありません。

ブルーベリー農園「のんびり山」

ブルーベリー農園「のんびり山」

所在地:長崎県諫早市小長井町田原13-3
営業時間:12:00 – 17:00 (LO 16:00)
定休日:不定休

HP:https://www.nonbiriyama.com/
Instagram:@nonbiriyama

農園の営業期間:2025年7月25日~8月24日
(毎年およそ7月中旬頃~8月末頃に開園)
農園の営業期間以外は、不定期でイベント出店やカフェ営業をしております。
詳しくはInstagramにてご確認ください。

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