暮らしたくなること2025.11.28
斜面地の空き家を再生する、佐世保のまちのこれから|株式会社ナナメ・大村湾商い暮らし久保暁育さん

長崎県佐世保市を拠点に、ユニークな活動を展開する株式会社ナナメ。
その代表である久保さんに、これまでのキャリア、佐世保での挑戦、そして地域活性化への展望について伺いました。
東京での経験が育んだ、全国の空き家ネットワーク
久保さんの現在の活動は、佐世保市の斜面地の空き家の有効活用をメインとしています。しかし、そのキャリアのスタートは東京。
「佐世保に来る前は、『カリアゲJAPAN』を運営している、あきやカンパニーの取締役をやっていました。その頃は、関東だけでなく九州にも頻繁に来ていて、全国を回っていました」と久保さんは語ります。
全国からの空き家に関する問い合わせが増える中、久保さんはある課題に直面します。
「遠方からのご相談に対して、自社で動くと移動コストがかさむことに加えて、土地勘がないことで提案にも限界がある。また物理的な移動距離の問題もあり、各地の業者さんと事業提携という形で、のれん分けさせてもらいながら全国にネットワークを広げていきました」

この戦略は、不動産の特性を深く理解した上での判断でした。
東京の新宿と明大前のように距離は近くても街の特性が全く異なるように、空き家活用には「地元の事情をよく知る人」の存在が不可欠です。家賃相場だけでは測れない、そのエリアならではの売り方や使い方の工夫が必要だからです。
「空き家特措法」が後押しした、社会課題への挑戦
久保さんが空き家に関わるきっかけとなったのは、「空き家特措法」の施行でした。
「空き家を放置しておくと税金が上がったり、行政代執行で処分されるという法律ができたんです。当時から地方観光に興味があり、人口減少も見据えていたので、空き家を観光の素材として使っていくのがいいのではないか、と思ったのが10年ほど前です」

この視点は、都市部と地方の空き家が抱える課題の違いを明確に捉えています。
都市部の空き家は地価が高く、基本的に「売れない不動産はない」状態。相続問題などで手間取ることはあっても、ニーズは必ず存在します。
一方、地方の空き家は状況が全く異なります。
「地方は非常に難しい。人口が減り商圏の中に人が少ないため、不便な場所に住みたいというニーズがそもそもないんです。売れない、誰も欲しがらない物件も多く、地元の不動産屋さんも、難色を示すことが多くあります。」
佐世保の「ブルーオーシャン」への挑戦
難しい地方の空き家活用において、久保さんはなぜ佐世保を選んだのでしょうか。
「佐世保を選んだ理由は、地形です。傾斜が多く、不動産としては難しいエリアであると同時に、中心地のアーケードから徒歩圏内にすぐ斜面が広がり、廃墟化している場所が多い。中心地からすぐ近くに、明るいところと真っ暗なところが混在する、その激しいコントラストが非常に印象的でした。」
全国を見てきた久保さんにとって、佐世保の中心地近くの「真っ暗な街」は、地方であまり見たことのない光景でした。
「いろいろ調べた結果、うまく攻略している人がいない。買うにしても、借りるにしてもコストが抑えられる。『この斜面地は、もしかしてブルーオーシャンではないか?』と感じたんです。」

佐世保の斜面地にある空き家は、そのまま住宅として再生しても東京のように人が住む可能性は低いため、久保さんは「Airbnb(民泊)への転用」や「カフェと民泊の兼用施設」といった、新しい使い道を模索されています。
さらに、佐世保の大きな強みとして、米軍基地の存在によるインバウンド需要も見込んでいます。
「僕が手がけているところは、70%くらいが海外の方の利用です。米軍基地があるのは非常に大きいですね。」
会社の「フラッグシップ」となる古民家再生プロジェクト
現在、久保さんが実際に購入し再生を進めているのが、佐世保駅から徒歩15分ほどの「山のてっぺんにある古民家」です。築100年を超えるこの古民家を、宿泊と飲食を備えた旅行施設にしようと計画しています。

「なぜこの物件を購入したかというと、会社のフラッグシップとして非常に有効だと考えたからです。海も山も見渡せる、なかなか街の近くにない立地です。」
この古民家は、再生の途中段階からレンタルスペースの貸出ができる、プラットフォームに掲載しています。
「出来上がったものを見る機会は多くても、その前の状態を見る機会は少ない。一旦その状態を見てもらうためにフェーズを分けたんです。案の定、皆さん反応がいい。」
このフラッグシップ物件の存在は、単なる収益物件に留まりません。
「この物件を購入したことによって、SNS経由で清掃スタッフの希望者が来てくれたり、町内会と関わるようになり、そこから『あそこも空いてるよ』と、オーナーさんを紹介してもらえるようになりました。」
驚くべきことに、プロジェクトに参画してくれるスタッフは、金銭的なリターンよりも「プロジェクトへの参画」に価値を感じてくれる人々です。
これは、物件への共感度が高く、運用面で大きな助けになると久保さんも語ります。
山の「面」を取り、エリアの価値を上げる
久保さんの今後の展望は、さらに壮大です。
「一軒だけやるのではなく、エリアでやりたい。その可能性が、町内会とのつながりを通じて見えてきました。」
最終的なゴールは、そのエリアの価値を高めることです。

「なんとなく形が見えてきたときに、『そこに住みたい』という人を生み出せたら、もうゴールかなと思っていて、エリア全体に価値が出てくるんですよね。」
“住む人”ではなく、“来る人”を増やす地域づくり
現在、久保さんが参画している「大村湾商い暮らし」は、長崎県・大村湾エリアを舞台に、“暮らし”と“商い”を一体化させるライフスタイル型プロジェクトです。
「この同一商圏の中だけで集客しようとするには限界があります。それをどうやって都市部の人に認知させるか。東京と長崎が連携して動けることで、都市部の人にもリーチできる仕組みになる。」
久保さんは、元々構想はあったもののペンディング状態だったこのプロジェクトを、自ら声をかけて再始動させました。
「大村湾商い暮らし」の今後の役割について、久保さんはこう考えています。
「最終的な構想は、大村湾から各地に展開できることですが、まずモデルケースを作らなければならない。東京の人が地方を知るきっかけを持つためのツールになっていくことが一番いい。」

久保さんは、地域活性化において、「住む人を増やす必要はあまりない」という持論を持っています。
「将来的には人口は減ってしまうので、『来る人を増やせばいい』と思っています。」
「移住してください」と言うとハードルが高いですが、「どうやって関わりしろを作っていくか」が重要だと久保さんは言います。
「将来的には、誰もが三拠点でも四拠点でも持てるようになると良いと思っています。人間が回遊していれば、お金も人も回る。それが日本の最終形態なのではないでしょうか。」
佐世保という斜面地の難しさに、ビジネスの可能性を見出し、新たな挑戦を続ける久保さん。
その活動は、地方の空き家問題に対する一つの大きな解決の糸口となりそうです。
株式会社ナナメ
代表:久保暁育
所在地:長崎県佐世保市木風町1370-73
HP:https://nanamesasebo.my.canva.site/
Instagram:@kbstr80
大村湾商い暮らし:https://a-kurashi.work/






