おすすめしたいもの/会ってほしいひと/体験してほしいこと2024.01.24
次の世代にもつながる農業の新たなチャレンジを!| 宮下農園 宮下清次郎さん・茜さん
諫早市森山町で70年以上にわたり長崎県唯一、県の認定を受けた特別栽培米やミニトマトの農業を続ける、宮下農園。今回は3代目の宮下清次郎さんと茜さん夫婦は、ミニトマト「宮トマト」の栽培、非常に珍しいミニトマトのお酒の発売など、新たなチャレンジを続けています。2人にこれまでの取り組みや農業を続けるうえで大事にしていることなどを語っていただきました。
小さな子どもにもパクパク食べてもらえるミニトマトを!
高校生の頃から農業の手伝いをしていたという宮下清次郎さん。社会人になって一般企業に就職し、本格的に父から引き継いだのは27歳のときでした。
「先代のころから化学肥料や農薬を極力使わず、土が持っている力を最大限に活かして、おいしい農産物を作るというのを第一にしてきました。それにやはりおいしいものを作ってお客さんに認めてもらいたい、お客さんに食べてもらっておいしいという笑顔を見たいという、そこの部分は父と一緒の考えでぶれずにやっています」
宮下農園の土壌は、土や砂の混じっていない「純度100%潟」が特徴的。先代はこの土壌が、トマトを育てるのに適していると気づいたそうです。もともと大玉トマトを作っていましたが、清次郎さんは思いきってミニトマトへ変えたといいます。
「僕の目標は小さい子どもでもパクパク食べてもらえるようなものを作りたいというのがありました。大玉トマトも人気だったので変えるのは勇気がいりましたが、ミニトマトに変えてからお客さんから子どもがとても気に入っていると評価されることが増えて、うれしく感じています」
「潟のミネラル」を吸収して育ち、細かな環境制御のもと、特別栽培したこのミニトマトを「宮トマト」と命名。ぎゅっと甘さが濃縮された宮トマトは、子どもたちを含む、幅広い世代に愛されるブランドへ成長していきます。
割れたミニトマトを活用しておいしいワイン酵母仕込みのお酒に!
宮トマトを作った背景には、宮下農園がある森山町で、地元の特産品となるものを生み出したかったという想いもあったそうです。
「日本全国の方、そして世界から、この商品はこの地域でとれるものなんだっていうのを知ってもらいたいと思いました。また若い人たちに一次産業だけでなく六次化の可能性を広げるきっかけとなってくれればいいなっていうのがあります」
六次化というのは、生産だけでなく、加工や販売までを行うこと。実際、宮下農園ではミニトマトを栽培するだけでなく、それを使ったワイン酵母仕込みのお酒やスープカレーも販売しています。
「ミニトマトを栽培していると、どうしても割れちゃって商品化できずに捨てないといけないものが出てくるんですよ。でも、実は割れたものほど、完熟しているので、一番おいしいんですよね。なので、どうにかできないかと考えてました」
ケチャップやトマトなどが商品化のアイデアとして考えられるが、特徴あるものを作りたかったという清次郎さん。九州のいろんな道の駅を回っていく中でヒントを得て、仲良くなったワイナリーの工場長に相談して、ワイン酵母仕込みのお酒を作ることにしました。
「試作で最初作ったら、めちゃくちゃうまかったんですよ。うちの奥さんはお酒は飲めない人なんですが、それでもおいしく飲めるっていう味だったので、自信を持ちました」
「ワイン酵母仕込み茜鶴 ミニトマトのお酒 甘口」は、2023年4月フランス開催のフェミナリーズ世界ワインコンクールにて「日本リキュール部門」にて銀賞を受賞。2023年の3月より販売開始となりました。
自分たちでイチから作り上げていく
清次郎さんの奥さんで、事務全般を担当しながら農業も行う茜さんは、「宮トマト」というブランドを立てた背景について、従来の農業から脱却して新しい形にチャレンジする姿勢を語っていただきました。
「今までは市場にミニトマトを出すだけだったのですが、資材も高騰していて市場価格に左右されるという苦しさがありました。そこで自分たちでブランド化して、一方的に決められた価格ではなく、スーパーなどの業者と直接交渉ができる、同じ土俵に立って取引がしたいというのが、まずありました。」
直接取引することで、こだわって作った農産物をきちんと評価してもらえるようになると考えたそうです。また、お客さんからしても、収穫したものが次の日に店頭に並んでいれば、新鮮なものを買えるという安心感につながるのでしょう。
「ミニトマトのヘタが枯れずにピンとしているような栽培方法をしていて、そういったところもお客さんに評価してもらっていると思います。お客さんがどういうものを求めているのかっていうものを自分たちも考えて、提供していくという形ができてきています」
そう語る茜さんは4児の母でもあります。そこには自分たちだけでなく、子どもたちや次の世代に農業がしたいと思えるような環境を作っていきたいという願いが感じられます。
「森山は自然が豊かで農業が盛んな地域なので、生産者が苦しい思いをしないよう、まずは自分たちが一歩踏み出して、新しい形がどうにかできていかないかなっていうのを試行錯誤でやっています。自分たちで一からやってるんで、大変なことの方が多いのですが、形にはなってますし、お客さんからも認められてるようになってきたのかなと実感しています」
干拓地の葦と伝統工芸の和紙を使って行った凧あげ大会
清次郎さんは今後、宮下農園で一緒に働きたい人を増やしていきたいそうです。そんな中でも、障がい者雇用も積極的にしていきたいと語ります。
「今も一緒に働いている仲間がいるのですが、一生懸命働いてくれるし、素直だし、とてもいい人なんです。しっかり給料を支払って、今後、両親が亡くなったりした後でも、自立していける環境を作っていきたいですね」
また地域を盛り上げていきたいという想いも強く、清次郎さんは週2回ボランティアで柔道教室も開いています。さらに面白い取り組みとしてあげたのが、凧あげ大会。干拓地で問題となった枯れた葦と、伝統工芸の和紙を組み合わせて凧を作り、凧あげを行ったそうです。
「枯れた葦は環境に悪い成分を吐き出すし問題になっていたので、どうにか有効利用できないかと考えてました。今年の凧あげ大会参加者で、次も行きたいっていう人がたくさんいてくれて。来年はかなりの人数でまた開催しようと計画してます。将来的にはギネス記録の人数も狙いたいです(笑)」
この葦と和紙を組み合わせたものは、高級感がある包装紙としても利用されており、宮下農園で販売しているワインでも使われています。そこには環境保全の目的に加え、伝統工芸の和紙にも注目してもらいたいという気持ちも込められているのです。
次の世代につながるようなチャレンジを続けたい
一人勝ちが好きではないというお二人は、今後も地域に貢献していきたいという想いが感じられます。
「このあたりは長崎から来てもそのまま島原に行く通り道という感じだったのですが、実はこういう魅力がある土地なんだというのを、まずは自分から発信していきたいですね」
そのためには、一次産業者が減らないように、自分たちがチャレンジしていきたいと語ります。
「日本の農産物って海外と比べてみても、本当に技術も高くおいしいものだと感じます。だから一次産業者を今後減らしちゃいけないって思うんですね。森山でも若い人たちが農業をしやすいように、まずは私たちが一歩を踏み出して、自分たちにもできると思えてもらったらいいなと思います」
住所:長崎県諫早市森山町本村西昭和開3573
TEL:070-8491-3064
HP:https://www.miyashitanouen.com/
オンラインショップ:https://miyashitanouen.stores.jp/
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