おすすめしたいもの2026.08.07
黒なまこの価値を、ゼロからつくり直したものづくり|大村湾漁業協同組合 松田組合長、亀松 紀子さん

長崎県のほぼ中央に位置する、波静かで穏やかな大村湾。
この豊かな海で育つ特産品のなまこの中に、かつて「黒い」という理由だけで、不条理にもお金をかけて駆除されていた「黒なまこ」がありました。
今回は、その厄介者とされた命を「地域の宝」へと変え、日本だけにとどまらず海外でも親しまれている極上の無添加スキンケアへと生まれ変わらせた、大村湾漁協同組合の松田組合長と、大村湾水産加工品販売の亀松紀子社長を訪ねました。
海と地域、そして使う人の肌に寄り添い続ける、温かく・強い想いをお届けします。
かつての「厄介者」――補助金を出して駆除されていた黒なまこの真実

「大村湾の漁師は、なまこ漁があるから漁師をやっていける。それくらい、なまこはここの大事な特産品なんです」
そう力強く語るのは、大村湾漁協の松田組合長です。 かつて大村湾では年間700~800トンものなまこが水揚げされていました。その主役は、高値で取引される「青なまこ」や「赤なまこ」でした。しかし、ある時期から海の中で「黒なまこ」が目立つようになっていきます。
「食べたら全く一緒なんです。色素が違うだけで、味も美味しさも青なまこと何にも変わらない。それなのに流通させると、業者から『黒はイメージが悪い』と言われて安値で叩かれてしまう。青なまこのブランド価値を守るために、当時は県が補助金を出して、黒なまこを海から獲っては駆除していたんですよ。バカみたいな話でしょう」
せっかくの海の恵みであり、尊い命。
それを「黒いから」という人間の都合だけで処分してしまうのは、あまりにも不条理ではないか――。平成13年に漁協へやってきた松田組合長は、その現状に強い疑問を抱きました。
「資源は資源。黒であっても、この大村湾が育ててくれた宝物だ。殺すんじゃなくて、なんとか活かそう」
そう決意した松田組合長は、平成12年に地元の漁業者5人とともにグループを立ち上げ、駆除されていた黒なまこを引き取り、乾燥なまこなどの加工品として活用する取り組みを始めました。
さらに平成18年に組合長会会長に就任すると、組合長会で「大村湾の黒なまこは市場に安値で流通させず、すべて加工品の原料として漁協が一括して買い取る」という大胆な決断を下し、地域の漁業資源を守る仕組みを作り上げたのです。
冬の加工場での偶然の発見――「ツルンツルン」の手が教えてくれた海の恵み
黒なまこの有効活用を模索するなか、平成18年、転機が訪れます。
東京に本社を置く「黄金生子本舗」の小坂さんが黒なまこの入札に参加し、川棚にある漁協の施設を借りて本格的な加工工場を稼働させたのです。
乾燥なまこの加工が行われるのは、身を切るように冷たい風が吹く冬の時期。工場の作業員として集まった地元の女性たちは、毎日毎日、冷たい塩水に手を浸しながら黒なまこを洗う作業に追われていました。
「普通ならね、冬場に塩水を使っていたら手が荒れてカサカサになるでしょう。ところが、そこで働いている人たちの手が、みんなツルンツルン、スベスベになっている。これは何でだろう?ということになってね」
不思議に思った松田組合長たちは、長崎大学に研究を依頼しました。すると、なまこの皮膚に豊富に含まれるコラーゲンや、天然の界面活性作用を持つ「サポニン」といった成分が、驚異的な保湿効果と美肌作用をもたらしていることが科学的に実証されたのです。
「それなら、この海の恵みを毎日使える石鹸にできないか」
こうして、大村湾の黒なまこエキスを使った石鹸開発のプロジェクトが始動しました。
目指したのは、余計な化学物質を一切加えない、肌の弱い人でも安心して使える「本物の石鹸」でした。地道な開発の末、埼玉県にある製薬会社がその熱意に応えて製造を引き受けてくれることになり、ついに納得のいく無添加石鹸が誕生したのです。

ちなみに、この「黒なまこ石鹸」の印象的な美しい黒色は、なまこそのものの色ではありません。
「なまこのエキス自体は黒くないんです。あの黒い色は、炭(木炭)の色。炭には消臭効果や汚れを吸着する力があるから、お肌をよりすこやかにするために炭を配合しているんですよ」と松田組合長は、いたずらっぽく笑いながら開発の秘密を教えてくれました。
「伝わる価値」を育てたブランディング

「最初に出会ったときは、商品の品質は本当に素晴らしいのに、パッケージや売り方がもったいないな、と感じたんです」
そう振り返るのは、現在「大村湾水産加工品販売株式会社」の代表を務める亀松紀子さんです。
平成23年、黒なまこ石鹸のスキンケア展開が経済産業省の「農商工連携」に認定されたことを機に、松田組合長たちは新たな販売会社を立ち上げました。そこで、美容業界での豊かな経験を持ち、東京を拠点に活動していた亀松さんにブランドの未来が託されたのです。
「なまこ」という素材への抵抗感を克服するため、亀松さんは東京の百貨店催事や通販を中心に、商品の価値を分かりやすく伝えるスタイリッシュなブランディングを進めていきました。

亀松さんが大切にしているスキンケアの哲学は、驚くほどシンプルです。
「基本は『洗いすぎない』『つけすぎない』。私たちの肌には、もともと自ら潤う力が備わっています。その肌本来の力を引き出すために、なまこの豊かな保湿成分で優しく洗い上げることが何より大切なんです」
黒なまこ石鹸の泡は、手のひらを下に向けても決して垂れないほど、キメ細かく、もっちりとした弾力があります。この濃厚な泡がクッションとなり、肌をこすることなく汚れだけを優しく吸着するため、洗い上がりの”つっぱり感”が全くありません。

「背中のニキビにずっと悩んでいて、結婚式でウェディングドレスを着るのを諦めかけていた若い女性がいらっしゃいました。その方がこの石鹸を使い始めたら、お肌が見違えるようにきれいになって、当日は自信を持って綺麗なドレス姿を見せることができた、と嬉しそうに報告してくださって……。そのご家族は、今でもずっとこの石鹸を愛用してくださっています」
そう語る亀松さんの温かい表情からは、商品への深い愛情が伝わってきます。
ほかにも、アトピー肌に悩むお子さんを持つお母さんたちや、肌の弱い高齢の方まで、一度使った人々がこぞってリピーターになり、今ではシンガポールや海外の愛用者がわざわざ東京の事務所へ買い求めに来ることもあるほどです。
地域を耕し、共に育つ――お母さんたちが笑顔で輝ける場所
亀松さんが経営においてもうひとつ、黒なまこ石鹸と同じくらい大切にしていることがあります。それは、「子育て中の女性が、無理なく、笑顔で働き続けられる職場環境をつくること」です。
「私自身、子育てをしながら仕事をしていく中で、たくさんの葛藤や大変な経験をしてきました。だからこそ、今働いてくれているスタッフたちには、家庭も仕事もどちらも大切にしてほしいんです」
同社では、短時間勤務はもちろん、子どもが急に熱を出したときなどの突発的な休みにも、スタッフ同士がお互いにフォローし合って柔軟に対応できる体制を整えています。
「お母さんたちが安心して、いきいきと働ける場所があること。それも、この事業が地域に対して果たせる大切な役割だと思っています」
黒なまこがもたらす優しさは、使う人の肌だけでなく、それを届ける地域の女性たちの暮らしや心までも、温かく包み込んでいます。
温暖化という試練「2トンの海」が問いかける、変わらない信念
順調に全国へファンを広げてきた黒なまこ石鹸ですが、いま、大村湾の海はかつてない未曾有の危機に直面しています。 地球温暖化に伴う海水温の上昇です。
「なまこは、水温が29度を超えたら全滅してしまうデリケートな生き物なんです。大村湾は閉鎖的で水深が浅いから、夏場は海底まで28度、29度になってしまう。この2年間、本当に壊滅的な状態です」と松田組合長は、静かに、しかし深刻な眼差しで語ります。

「一昨年までは、水揚げが減ったと言っても150トンから200トンほどは獲れていました。ところが、去年の冬の漁獲量は、大村湾全体を合わせても、わずか『2トン』。100分の1以下になってしまった。青も赤も黒も、すべてのなまこが海から消えてしまったんです」
原料が確保できなくなり、これまで落札していた加工会社や水産会社は、次々とこの地から手を引いていきました。現在残っているのは、松田組合長たちが頑なに守り続けてきた漁協独自の漁業者グループによる加工場だけです。
「販売を継続していくために、原料がなくなれば事業が途絶えてしまう。だから、どうしても足りないときは、成分がまったく同じ他地域(北海道など)のなまこを一部補いながらでも、この石鹸の灯を絶対に消さないようにつないでいくしかありません」
それでも、松田組合長と亀松さんの胸にある「絶対に譲れない一線」は揺らぎません。
「どんなに原料不足に陥っても、品質は絶対に落とさない。そして、これまで守り続けてきた『無添加』の製造方法は、何があっても絶対に変えん。それだけはお客さんとの約束ですから」
松田組合長がかつて提唱し、2019年には農商工連携の全国代表として東京の国際フォーラムで発表した「地方創生」の理念。それは、農業・漁業・林業・商工会という地域の垣根を越えて手を取り合い、それぞれの強みを持ち寄って地域全体を盛り上げるという生き方です。
「単体で頑張ってもダメ。みんなで連帯して、大村湾という素晴らしい地域を、次の世代に遺していかなくちゃいかん」
厄介者とされた黒なまこに価値を見出し、多くの女性の肌を救い、地域の雇用を生み出してきた黒なまこ石鹸。

この小さな丸い石鹸には、大村湾の自然を愛し、不条理な現実に立ち向かい、関わるすべての人を幸せにしようとする、長崎の人々のどこまでも優しく、どこまでも強い「魂」が、今も変わらずに息づいています。

お二人のお話を伺い、黒なまこ石鹸に込められた想いや背景に触れたことで、その魅力に惹かれ、実感したくなり実際に使ってみました。
きめ細かなやさしい泡に包まれる心地よさと、洗い上がりのつるんとした肌ざわり。
毎日の洗顔が少し楽しみになるような使い心地に、スタッフもすっかり魅了されています。
大村湾で「厄介者」とされていた黒なまこが、多くの人の肌をやさしく包む存在へ。その背景にある物語を知ると、この石鹸がいつもより少し特別なものに感じられるかもしれません。
大村湾漁業協同組合
住所:長崎県西彼杵郡時津町浦郷542-18
Instagram:
@jfoomurawan
大村湾水産加工品販売
住所:(東京事務所)東京都新宿区四谷1-10-2-307
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