体験してほしいこと2026.07.11
「好きだから守りたい」— 大崎半島の自然と未来をつなぐ|Kujaku Peace/瑠璃の水辺 前平 泉さん

大村湾に突き出す大崎半島。穏やかな海と豊かな森に囲まれたこの場所で、環境保護や自然体験活動、地域づくりに取り組んでいるのが前平 泉さんです。
移住者として地域に飛び込み、自治会長や環境団体の代表を務めながら活動を続けてきた前平さん。なぜ大崎半島に魅了され、どのような思いで活動を続けているのでしょうか。
前平さんへお話を伺いました。
「ここに住みたい」と思った風景

前平さんは長崎県佐世保市出身ですが、高校卒業後は県外へ進学し、その後は神奈川県茅ヶ崎市を拠点にエンジニアとして働いていました。
当時は大崎半島の存在もほとんど知らなかったといいます。
転機となったのは、佐世保への帰省の途中に立ち寄ったことでした。
「主人が釣り好きだったこともあって、ふらっと立ち寄ったんです。国道から降りて海が見えた瞬間、『なんて素敵な場所なんだろう』と思いました」
坂道の先に広がる海。点在する家々。静かに流れる時間。
その風景を見た瞬間、「ここに住みたい」と感じたそうです。
「理由は特になかったんです。ただ好きだと思ってしまったんですよね」
その思いは一時的なものではありませんでした。
土地を購入し、移住のタイミングを探しながら約10年。仕事を辞める節目を迎えたことをきっかけに、大崎半島への移住を実現しました。
エンジニア時代に身についた「自分で考え、動く力」
移住前の前平さんは、企業でエンジニアとして働きながら、中国や台湾、韓国などへの海外出張もこなしていました。
毎日仕事に追われる忙しい日々でしたが、その経験は今の活動の大きな土台になっています。
最先端技術を商品化するエンジニアの職場では「与えられた仕事をするのは当たり前。自分で何を生み出したかが大事だと教えられました」
会議では必ず発言することを求められ、お客様とのやり取りでは「できません」ではなく、「できます。その代わりに」と提案する姿勢を徹底的に叩き込まれたといいます。
「答えが出るまで考え続ける癖がつきましたね」
また、海外での仕事を通して、自分の考えを相手に伝える力も身につきました。
「海外では黙っていたら存在しないのと同じです。自分で発信しないと何も伝わりませんでした」
その経験は現在、行政との協議やイベント運営、学校での講演活動など、さまざまな場面で生かされています。
地域に飛び込み、地区代表の総代に

移住当初は知り合いもおらず、地域とのつながりもありませんでした。そこでまず参加したのが自治会活動となります。
地域の人たちと関わるうちに、前平さんは思いがけず総代(自治会長)を引き受けることになります。
「当時の総代さんがご高齢で長く続けておられて、次の担い手がいなかったんです」
会議で役員交代を提案したところ、そのまま自分が引き受けることになったそうです。
川棚町では、これまで自治会長を務めるのは男性のみでした。
しかし、地域の人たちは移住者である前平さんを温かく受け入れてくれました。
「そこから地域の方々とのつながりがどんどん広がっていきました」
自治会活動を通して地域の課題や魅力に触れ、次第に地域づくりそのものが面白くなっていったといいます。
海岸清掃から始まった環境活動

目の前に広がる海を見ながら暮らすうちに、前平さんの関心は自然環境へ向かっていきました。海岸清掃を続けるなかで、「どうすればこの環境を守れるのだろう」と考えるようになったのです。

やがて同じ思いを持つ仲間たちと出会い、ボランティア団体「Kujaku Pease(クジャクピース)」を立ち上げました。
海岸清掃だけでなく、里海づくりや環境啓発活動、生き物調査なども行っています。
特にうれしい変化は、近年生き物の種類が増えてきていることだといいます。

「専門家のメンバーが毎年調査しているんですが、ビオトープの生き物の種類が確実に増えているんです」
新たなトンボや昆虫が確認されるようになり、自然環境が少しずつ豊かになっていることを実感しています。
「元々あったこの地域の自然の力を再生させたいです。」
そう語る前平さんの言葉には、自然への深い愛情がにじみます。
自然を体験する場をつくる

現在は「瑠璃の水辺」という団体も作り、自然体験プログラムも展開しています。
塩づくり体験やノルディックウォーキング、生き物観察会、地質学習会、星空観察会など内容はさまざまです。
ただ体験するだけではありません。
なぜこの海が存在するのか。なぜ森と海がつながっているのか。
自然の仕組みや地域の特徴を伝えることを大切にしています。
「体験の中に必ず学びを入れるようにしています」
自然を知ることが、自然を好きになる第一歩になると考えているからです。
アースデイで伝えたいこと

前平さんたちは毎年、大崎半島で「アースデイ in 川棚 」を開催しています。海と森に囲まれた大崎半島ならではの環境イベントです。
マルシェや体験会だけでなく、自然について考えるきっかけづくりも重視しています。
2026年は初めて有料開催に挑戦しました。
その理由の一つが「未来への贈り物」でした。
大人の入場料の一部を子どもたちへ還元し、会場で使える500円チケットとして配布したのです。
「自分の子どもだけではなく、地域の未来にお金を出すという文化を広げたかったんです」
当日は高校生による環境トークや自然体験プログラムも実施され、多くの参加者が環境について考える時間を過ごしました。

大崎半島を自然との出会いの入り口に

前平さんは現在、環境省が進める「自然共生サイト(30by30)」の認定取得に向けた準備も進めています。
地域の自然環境を守りながら、その価値を次世代へ引き継いでいくためです。
また、子どもたちが自然体験を学べる受け入れ環境の整備も構想しています。
「自然の家のような場所があって、子どもたちが来て学べる環境をつくりたいんです」
近年は小学校や中学校からの依頼も増え、環境学習の講師として学校を訪れる機会も多くなり、子どもたちに地域の自然の価値を知ってほしいと前平さんは考えています。
「子どもたちが知らないのではなくて、大人が地域の魅力を伝えきれていないんだと思うんです」
だからこそ、自然に触れる機会を増やし、地域への愛着を育てていきたいと話します。
前平さんが目指しているのは、大規模な観光地づくりではありません。
大崎半島の自然を好きになった人が訪れ、その思いが少しずつ広がっていく地域です。
「まずはここに来てほしいんです。来てもらえれば、この場所の魅力は自然と伝わると思うから」
森と海、人と生き物が共に生きる未来へ。
大崎半島を“自然との出会いの入り口”にすること。それが前平さんの描く未来です。

「好きだから守りたい」
前平さんの活動の原点は、とてもシンプルな思いです。
その思いが地域を動かし、人をつなぎ、未来へ続く風景を育てています。
大崎半島の穏やかな海を眺めながら、その言葉の意味を改めて感じました。
Kujaku Peace・瑠璃の水辺
前平泉さん
HP:https://luli-mizube.com
Instagram(Kujaku Peace):@kujakupeace
Instagram(瑠璃の水辺):@osakiseaterrace






