おすすめしたいもの/会ってほしいひと2026.11.06
長崎で出会った「命をつなぐ」ものづくり|ジビエレザーHUMMINGBIRD 小畑 真裕子さん

「失われてしまった命を、せめて最後まで大切にいただきたい」
そう考え、イノシシの皮を革として生かす「ジビエレザー」のものづくりを続けている女性がいます。
札幌から長崎へ移り住み、古民家で暮らしながら、革をつくり、作品を生み出し、今ではものづくりを伝える活動まで行う小畑さん。
そこには、イノシシの皮を生かすことだけではなく、「命を大切にすること」や「自分らしく暮らすこと」への思いがありました。
今回は小畑さんの長崎での暮らしと、ジビエレザーに込めた思いを聞きました。
札幌から長崎へ。古民家で始まった暮らし
もともとは北海道・札幌で暮らしていた小畑さん。
現在の長崎へ移住する前には、福岡県糸島市で1年ほど暮らしていたそうです。
「古民家に住んで、DIYをしたり、畑をしたり。そういう暮らしがしたかったんです」
そんな思いから探し続け、たどり着いたのが長崎にある築100年ほどの古民家でした。
北海道では、イノシシは基本的に身近な存在ではありません。
ところが長崎で暮らし始めると、イノシシによる被害や捕獲の話を耳にするようになります。
そこで、ふと気になったことがありました。
「捕獲されたイノシシの皮って、どうなるんだろう?」
実は小畑さん、糸島に住んでいたころから革を使ったものづくりをしていました。
調べていくうちに、全国では害獣として捕獲された動物の皮を集め、革として生かそうという取り組みがあることを知ります。
「せめて一頭だけでも、捨てられてしまう皮を革にして、何か作ってみたいと思ったんです」
そこから、小畑さんとイノシシの皮との付き合いが始まりました。
捨てられていた皮を、自分の手で革へ

最初は、なかなか猟師さんとのつながりができなかったそう。
そんなとき、近所の直売所で見つけた小さな「ジビエ」の文字がきっかけになりました。
店の人に相談すると、食肉処理をしている人を紹介してもらえることに。
そこで聞いたのが、「皮は捨てている」という話でした。
「それなら、私に買い取らせてもらえませんか?」
そうして譲ってもらった皮を、自分で処理していきます。
まずは塩を使って水分を抜き、その後、東京の革加工業者へ。
およそ1か月後、戻ってきた皮は、イノシシの「皮」から、ひとつの「革」へと姿を変えています。
そこから財布や小物などの作品を作ったり、革そのものを販売したり。
革小物の教室や「部活」のような活動も行っています。
最初は1枚だった皮が、5枚、10枚と増えていき、やがて扱う数は何百枚にもなりました。

「最初から、この活動を事業にしようと思って始めたわけではないんです」
そう話す小畑さんの活動は、誰かとの出会いや紹介、思いがけない依頼など、ひとつひとつの「ご縁」によって少しずつ広がっていったそうです。
できるだけ、捨てない
小畑さんが大切にしているのは、「一つの命をできるだけ無駄にしないこと」。
革を作るときに出る小さな端切れも、できるだけ捨てません。
小さなパーツにしたり、いくつかをつなぎ合わせたり。
革の端の形も、そのまま作品に生かします。

「次の皮に行く前に、この端切れを残しておくのがどうしても気になっちゃうんですよね」
決められたルールがあるわけではありません。
ただ、自分の中で「これは大切にしたい」と思うことを、活動が大きくなっても変えないようにしているそうです。
そもそも、この活動を始めたのは、お金のためでも、仕事にするためでもありませんでした。
だからこそ、自分の中にある感覚を大切にしたい。
そんな思いが、ものづくりの一つひとつに込められています。
一度だけ立ち会った、イノシシの最期
小畑さんには、今も忘れられない出来事があります。
猟師さんがイノシシを捕獲する現場に立ち会ったときのこと。何か手伝えることはないかと尋ねると、ワイヤーを引っ張っておくように頼まれました。
言われたとおりにワイヤーを引いていると、猟師さんが槍でイノシシの命を絶ちました。
目の前で起きたことに、大きな衝撃を受けた小畑さん。自分も一つの命を奪うことに関わったのだと感じ、その光景が何日も頭から離れなかったそうです。お肉を食べることもできず、何度も涙があふれました。
地域の暮らしを守るために活動する猟師さんたちを、責めたいわけではありません。それでも、命が失われる瞬間を目の当たりにした経験は、小畑さんの中に深く残りました。
だからこそ、手元にやってきた皮を無駄にしたくない。
一つの命からいただいたものを、できる限り活かしたい。
その思いが、小畑さんのものづくりの根っこにあります。
長崎で感じた「大きな家族」のようなつながり
札幌から移住してきた小畑さんが、長崎で好きになったもの。
それは、海や星、水といった自然だけではありません。
「人との距離が近いところが好き」
長崎では、近所の人が子どものことを知っていて、気にかけてくれる。
自分のことも、家族のことも、いつの間にか地域の人たちが知っている。
札幌にいたころとは、近所付き合いの感覚がずいぶん違ったそうです。
「大きな家族みたいな感じなんです」
移住してきた自分を、地域の人たちが少しずつ受け入れてくれた。
そのつながりが、イノシシの皮を集めるきっかけにもなり、活動を続ける力にもなりました。
海と星と、水。お気に入りの長崎
長崎での暮らしについて聞くと、好きな風景も教えてくれました。
家 山から見える景色。
海。
夜になると見える星空。
「流れ星もいっぱい見えるんですよ」
そして、暮らしの中で使っている山の湧き水。
「海と星と水と、最高です」
観光で訪れる長崎とは少し違う、そこで暮らしているからこそ見える風景です。
自分らしい暮らしを見つけて
実は、以前は英語の先生をしていました。
子どもが好きで、教えることも好き。
でも、学校という場所で働き続けるうちに、だんだんと無理をするようになっていきました。
シングルマザーとして子育てをしながら、仕事も頑張る。
北海道では朝4時に起きて雪かきをし、子どもを保育園へ送り、そのまま仕事へ。
あるとき、とうとう体を壊してしまいました。
「このままじゃ、何もかも壊れてしまう」
そう思ったことが、大きな転機になりました。
もう先生には戻らない。
自分で時間の使い方を決められる暮らしをしよう。
今は、洗濯をして、料理をして、その合間に革を触る。
子どもたちの生活に合わせながら、自分で一日の流れを決めています。
「こういう暮らしが、私は好きなんです」
ジビエレザーを「特別なもの」にしないために

現在は、革づくりを教える「部活」も続けています。
ただ技術を教えるだけではありません。
一緒に革を触り、話をして、時には悩みを相談したり。
そんな時間そのものを楽しむ場所になっています。
小畑さんが目指しているのは、自分一人でたくさんの商品を作ることだけではありません。
「作れる人を増やしたいんです」
ジビエレザーを作る人、作品にする人。
そんな「作り手」が増えていけば、いつかジビエレザーが特別なものではなくなるかもしれません。
牛や豚の革が、私たちの暮らしの中に当たり前にあるように。
イノシシが捕獲されたときにも、その皮が革として生かされる。
そんな未来を思い描いています。
革を選ぶところから、ものづくり

ときには、遠方からお客さんがやって来ることもあります。
ずらりと並んだイノシシの革の中から、「この革がいい」と一枚を選ぶ。
そして、「ここを使って財布を作ってほしい」と相談する。
どこを使うのか、一緒に考えながら形にしていく。
イノシシも生き物である以上、革の大きさや形、傷の入り方だけでなく、厚みや柔らかさ、しなやかさも一頭一頭異なります。 材料としての革になっても、かつて生きていたものの個性が、そのまま残っているのです。
だからこそ、傷や形の不揃いな部分を避けて、きれいに切りそろえるのではなく、その革ならではの曲線を活かすことも大切にしています。「この曲線を使ってほしい」と、お客さんからリクエストをもらうこともあるそうです。
「この人が使うんだなって思いながら作るのが楽しいんです」
完成したものを渡して終わりではなく、その後も大切に使ってもらえる。
何年も使い込まれた財布を見せてもらうこともあるそうです。
革に残る傷や色の変化も、その人が使った時間の一部。
一頭一頭違う革の個性が、使う人の思いと重なり、世界にひとつのものになっていく。一枚の皮から、一人の暮らしへ。
そんなふうにつながっていくものづくりです。
自分の人生も、大切にする

最後に、これからのことを聞きました。
返ってきたのは、ジビエレザーの話だけではありませんでした。
「自分の人生も、大事にしてほしいんです」
「自分らしく生きる」という言葉は、簡単に聞こえるけれど、実際にはなかなか難しい。
毎日の暮らしの中には、小さな選択がたくさんあります。
今日はどうするのか。
何を食べるのか。
どこで暮らすのか。
どんな仕事をするのか。
誰と過ごすのか。
その一つひとつを、自分を大切にしながら選んでいく。
やりたいことがあるなら、自分で動いてみる。
そうすれば、思っていたことが少しずつ形になることもある。
イノシシの皮を革に変え、新しいものへとつないでいく小畑さんの活動。
そこには、「命を無駄にしたくない」という思いだけでなく、自分自身の人生も大切にしながら暮らしていく、ひとりの女性の姿がありました。
革を見に来る人。
ものづくりを習いに来る人。
そして、ただ一緒に過ごす時間を楽しみに来る人。

「私、人が好きなんです」
そう笑う小畑さんの周りには、今日もいろいろな人が集まっています。
ジビエレザーHUMMINGBIRD(ハミングバード)
住所:諫早市
オンラインショップ:
https://hummingbird.base.shop/
Instagram:
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