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おすすめしたいもの/行ってほしいところ/食べてほしいもの2024.01.10

日本の伝統文化こそ世界に誇るSDGs|土井農場 社長 土井 賢一郎さん

山がちな土地が多い長崎県には珍しく、江戸時代から続く干拓によって生まれた広大な平野が広がる諫早市。県内最大の農業地帯であり、北海道のような大規模農場でのジャガイモ・タマネギの生産や米作りが盛んです。特産品種米の「にこまる」は、全国食味ランキングで5年連続を含む 8 回の特A評価を得たのだとか。

諫早で米作りと養豚事業を合わせて営む土井賢一郎さんは、ご自分の田んぼで収穫したお米を食べている時「この美味しいお米を豚にも食べさせてみよう」と思い立ち、実践してみたところ、臭みのない非常に美味しい豚肉ができたそうです。「諫美豚(かんびとん)」と名付けられた米で育てた豚肉は、瞬く間に人気を博し現在では長崎を代表するグルメのひとつになっています。

「豚の飼料に米を使う」というありそうでなかったヒラメキのきっかけや、将来の展望などについてお話を伺いました。

農業の「原点回帰」を目指した

諫早市にある「土井農場 KANBITON-PORK」という直営店舗では、お肉を購入したり揚げたてのカツなどを楽しむことができます。

諫早市で生まれ育った土井さんは、米作りと養豚業を営むご両親の影響もあり大学では農学を選考、卒業後はお父さんの跡を継ぎ、農業の世界へと足を踏み入れました。

「そのころは、農業は学歴がなくてもできる一番下の仕事といわれていた時代でした。継ぐ時には父親も『農業は儲からんけどよかか?』と言いよったですよ。」

しかし高校時代から自分で経営をしたいという夢があった土井さんは、「儲からないならどうすれば儲かるようになるかを考えれば良い」という信念のもと、消費者の心を掴む農業のあり方を模索します。そしてたどり着いたのは、原点回帰という方針。長年日本人が育んできた、全てのものに感謝し無駄なく活用する「資源循環型農業」を推し進めることにしたのです。

循環型農業の中で生まれた「米で育てる豚」

諫早平野の田んぼ。温暖な気候を利用し、冬は麦が栽培されています。

戦前まで、日本の農家では米生産の副産物である「ワラ」は家畜の餌にしたり家畜小屋に敷いたりして活用し、家畜の「フン」はワラや籾殻と混ぜて発酵させ堆肥として土づくりに活用していました。しかし国の方針によって農業の「近代化」が推し進められる中で、米農家は米だ けを作る、畜産農家は動物だけを育てるというように農業はそれぞれの専門に分化されていったのです。

その結果、現在国内の多くの田んぼでは堆肥の代わりに化学肥料が活用され、ワラは邪魔なものとして燃やされています。しかし、土井さんはこのような農業のありかたに対して「資源がもったいない」と感じ、米づくりから生じたワラは養豚の“敷きワラ”にし、養豚で生じた堆肥を米作りに活用。かつては当たり前であった資源循環の復活を目指してきました。

「堆肥は様々な微量元素やたくさんの有機物や微生物を含んだ、最高の土壌改良肥料なんです。一般的な米づくりでは 10a あたり 50kg の化学肥料の散布ですむところを、我々のところでは、60 倍の 3t の化学肥料を散布して土づくりをします。そしたらすごく美味しいお米が取れるようになったんです。」

そのお米を豚に食べさせてみようというアイデアも、循環型農業を目指す土井さんにとっては自然なヒラメキでした。

「美味しい豚肉ができるかと思って食べさせてみたら、めちゃめちゃうまかった。豚肉ってこんなにうまいのかっていう。ほんとにあれは『カルチャーショック』でしたね。」


1頭の豚は半年間で成人男性1年分以上のお米を食べる

土井農場の店頭に並ぶロース肉。諫美豚のおいしさが一番よくわかる部位だと言われています。

このような経緯で生まれた諫美豚。現在土井さんの農場では、諫美豚として出荷する豚が食べる餌の 33〜100%を、ご自分の田んぼや地域の方の田んぼで収穫した長崎県のブランド米「にこまる」にしています。

33%と聞くと「少ないのでは?」と感じるかもしれませんが、キログラム換算すると半年間で70kg となり、これは日本の成人男性が 1 年間に食べる米に匹敵する量なのだそう。人間よりもたくさん美味しい米を食べて育った豚肉は、臭みが少なく、脂身に甘みがあるのが特徴です。

「どの国でも、普通豚はその地域で主食になっている穀物で育てるとです。“穀物を豚肉とし て貯蔵する”という考え方で、食料不足に陥った時には豚肉を食べることで穀物を食べている ことになるとです。」

現在豚の飼料として一般的なのはアメリカから輸入したトウモロコシですが、たしかにそう言われてみると米で育てる方が自然な感じがしてきました。インタビューさせていただく前までは、「米で豚を育てる」という飼育方法を奇抜で新しいことのように感じていたのですが、むしろより伝統的で自然なやりかただったんですね。

1 年間履くことができる 1 万円の革靴

精米によって大量に生じる籾殻は豚舎の敷きワラとして活用された後、堆肥となり、やがて田んぼに帰ってきます。

「1 年間だけ履くことができる 1 万円の牛革靴と、2 年間履くことができる 2 万円の牛革靴があったとします。とても気に入っていて、原料やデザインや品質が同じなら、どちらを買いますか?」

これからの目標を尋ねると、土井さんからこのような問いが返ってきました。どちらもコスト的には同じなので、選ぶのは難しいですが…

「最近よく聞く『コスパ』という言葉を考えたら、若者はどちらを選ぶでしょうね…靴を履く人間の目線で見ればどちらも同じですよね。でも自然界全体、宇宙全体の視点で考えたら大違い。人間が使うために大切な牛の命をいただいて作ったのに 1 年しかもたない革靴を選ぶなんて…かけがえのない命をできる限り長く使ってあげたいですよね。この考え方こそが SDGs であり、日本の伝統的精神だと思います。」 

そして農業を始めたころのご自身の気持ちを、このように表現されました。

「お金にするためだけに豚を育てるなんて、鬼のような人間じゃなかかと最初は思ったですよ。地獄に落ちっかもしれんと思って、寝れんかった。でも人間は食べんことには生きていけん。稲だって野菜だって、人間に食べられるために生きている訳ではないですから。食べ物に感謝して、頂いた命の分までありがたく生きていくという気持ちが大事なんです。」

いろんな方向から物事を見れる、謙虚になれる、優しくなれる。そんなメリットが、農業を体験することにはあるそうです。今は小学校で農業について教えていらっしゃるそうですが、いずれは大人が農業を体験できる施設を作りたいのだとか。

「ゴルフ場みたいな『会員制の畑』というのを考えています。ロッカールームで着替えて、野菜を収穫して、シャワーを浴びて帰る。ジムに行くような感覚で農業を体験できたらいいんじゃないかと思って。」

西のイベリコ豚、東の諫美豚にならんといけん

ご自身が始められた「自家栽培のお米で豚を育てる」という手法が、日本中にどんどん広がって欲しいと語る土井さん。秋田県のアキタコマチや新潟県のコシヒカリに代表される日本各地の名産米を食べて育った豚が、産地間で競争することで切磋琢磨し、「日本の米豚」として海外に売り出していけたらいいと考えています。

「江戸時代、鎖国した状態の 250 年間で、私たちの先輩方は資源循環型農業と資源循環型社会を確立したのだと思います。SDGs(持続可能な社会)は日本のお家芸なんです。」

自然を変えるのではなく、自然を知り生かす。よりよい未来の社会を作り出すヒントは、過去から学ぶことにあると教えていただきました。

土井農場
〒854-0016 長崎県諫早市高城町8−10
TEL:0957-22-2983
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