おすすめしたいもの/会ってほしいひと/暮らしたくなること/行ってほしいところ/食べてほしいもの2025.08.02
島原の文化と未来を紡ぐ ~地元愛とカルチャーでつくる港町レストランの挑戦~ | 湊新地のレストランCOSTA 竹内悠太さん

長崎県・島原市にある港町「湊新地町」で、小さなレストランを営む竹内悠太さん。
高校卒業後、神奈川でバーやレストラン勤務を経験し、2011年の震災を機に地元へ戻ってレストランを開業しました。古い倉庫を改装した空間で、地元の新鮮な食材を活かした料理と音楽イベントを通じて、人と人、文化と文化をつなぐ場を育んでいます。
伝統を大切にしながらも、新しい挑戦を重ねる竹内さんに、その想いとこれからの展望をお聞きしました。

神奈川で見つけた「お店」というカルチャー
「地元はこっち(島原)なんですけど、高校卒業後は神奈川で就職しました」
そう話す竹内さんは、最初から飲食業を目指していたわけではありませんでした。高校卒業後に選んだのは、山崎製パンの工場勤務。当時は「自分で稼いで、自由に使いたい」という思いが強く、給与面を重視した選択だったと言います。
「でも、都会のバーやレストランに初めて触れたとき、『お店って、かっこいいな!』って感じたんです。全然知らない世界で、衝撃を受けました」
近所にあった、一人でお店を切り盛りするお兄さんの姿にも強く影響を受けました。
「二十歳くらいのころから『自分もこういうのをやりたい』と思い始めて。お客さんが集まって笑って話してる空間が、ただただ“かっこいい”と思いましたね」

そう語る竹内さんの言葉からは、「自分も誰かの居場所をつくりたい」という若いころからの夢が伝わってきます。
「震災を機に地元に帰ろう」と決めた日
神奈川では飲食店で経験を積みましたが、2011年の東日本大震災が転機となりました。
「やっぱり東京は怖いなと思いました。何かあったとき、すぐに帰れる距離がいいなと」
その思いで向かったのが福岡。そこで出会ったのが「ランドシップカフェ」というカフェでした。
「もともと長崎・波佐見の『ムック』という店によく行っていて、そこのつながりでランドシップを紹介してもらいました。雰囲気がすごく好きで、自分が大事にしたい“お店の空気”ってこういうのだなと思いました」

福岡での日々は、ただ働くだけではなく、遊びや出会いを通じて価値観を広げる時間でもありました。
「働いたり遊んだりしながら、だんだん『こういうペースで生きていきたい』という形が見えてきたんです」
島原の港町にたどり着いた理由
2018年、ついに島原に戻ってレストランをオープンしました。
場所は、かつて船の燃料や道具を扱うお店の倉庫だった建物。
「もともと島原城の米蔵の梁を再利用して建てられた建物なんです。港町らしくて雰囲気もあるし、ずっと気になっていました」
最初からスムーズに決まったわけではなく、物件探しは難航したそうです。
「貸し物件でもなくて、どうしようかなって思っていたときに、父の上司の知り合いの方が紹介してくれました」
中に入ってみると少し広いけれど、「ここをやりたい」と強く思ったそうです。
そして退路を断つ意味も含めて「すぐにやるしかない」と決意し、店舗づくりをスタート。

「大家さんが以前喫茶店をやっていたので、ベースはできていました。キッチンをちょっといじったり、棚を作ったりしながら、自分たちの色を足していきましたね」
「知らない人」が「仲間」になっていく場所
実際にお店を始めてみると、竹内さん自身が思っていた以上に「人のつながり」が広がっていきました。
「自分が音楽好きなんで、レコードやギターを置いたり、スケボーを飾ったりしていたら、そういうのが好きな人が自然と集まってくれるようになりました」

島原は保守的な土地柄だと思っていたけれど、「意外とそうでもなかった」と笑います。
「最初は知らない人同士だったのに、常連になって仲間になっていって。友達もどんどんつながっていって、それが楽しかったですね」
今では福岡や熊本など、県外の人とも自然と交流が生まれるようになりました。
「ミュージシャンの方が紹介してくれたり、お互いに“面白いね”って思える関係ができています。移住者の方も多くて、少数精鋭じゃないけど、面白い人たちが集まってきてる感じですね」
「料理人」より「お母さん」の気持ちで
料理へのこだわりを尋ねると、竹内さんは「地元の新鮮な野菜を毎日仕入れるのが楽しい」と語ります。
「島原って農家さんが本当に多くて、直売所でクオリティーの高い野菜を選べる。料理人っていうより、『お母さんが家族のためにご飯を炊く』みたいな感覚でやってます」
定番メニューは、スパイスカレー、ハンバーグ、塩麹チキンの3本柱。
「都会でやってたころは、アメリカンやメキシカン料理を出したりしてたんですけど、地元に戻ってみると『なんこれ?』ってなっちゃって。だから、みんなが分かりやすいメニューを大事にしています」

そこに季節の野菜をたっぷり使うことで、常連さんにも毎回新鮮な驚きを届けています。
店を飛び出して広がる活動
「音楽イベントは毎月やってます。月末には弾き語り歌謡ショーもあって、地元の人も外から来る人も楽しめる場になってます」
最近では、スケボー仲間とスケボースクールも開催。市の施設と協力しながら、子どもたちや大人にもスケボーを体験してもらっています。
「あとマルシェもやってますね。福岡や熊本の素敵なお店を島原に呼んで、地元の人に『こういうのもあるんだよ』って紹介したりしています」
「島原って何もないって言われがちだけど、外から来る人が『いいね島原!』って言ってくれると嬉しいんですよ」
ゲストハウスと「港町カルチャーエリア」の夢
将来の夢について聞くと、「ふたつあるんです」と竹内さん。
「ひとつはゲストハウスをやりたい。港町の雰囲気がいいので、空き家を活かして家族や友達がゆったり泊まれる場所にしたいです」
もう一つは、この湊新地町全体をもっと面白い場所にすること。

「移住者や新しい店が2、3軒増えたら、この辺りが “わざわざ来るエリア” になると思うんです。市街地からちょっと離れてるからこそ、特別感を出せる。ポテンシャルはめちゃくちゃ高いと思います」
好きなことをやって、それが誰かの楽しみになる
インタビューの終わりに、「地元の野菜を使って料理するのが楽しい」という言葉をもう一度聞きました。
「最初は自分がやりたいから始めたけど、気づけばそれが誰かの楽しみになって、地域の魅力になってる。それが一番うれしいですね」
竹内さんが作るのは、料理だけでなく、人と人をつなぐ「場」そのもの。
小さな店のカウンターから始まったストーリーは、今、町の未来を少しずつ変えようとしています。
