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行ってほしいところ2026.03.14

元・格闘家でTVマン!?「根獅子の浜」を守る熱血管理人が仕掛ける、海と地域の新しい景色|力武秀樹さん

「この海は、ただ綺麗なだけじゃダメなんです。誰かの記憶に残る場所にしないと」——そう力強く語るのは、平戸市「根獅子の浜海水浴場」の管理運営責任者、力武秀樹さん。

プロ格闘家を目指し、東京の過酷なテレビ業界を生き抜き、そして今、故郷の美しい海を守りながら地域の未来を切り拓こうとしている異色の 経歴を持つ挑戦者です。草刈りからSUP体験まで、汗をかきながら海と向き合う彼の姿からは、「自分たちの手で地域を運営する」という新しい地方のあり方が見えてきます。

彼がなぜ映画の現場を飛び出してまで、この海に戻ってきたのか。その背景には、格闘技で培った根性と、テレビマンとして磨いた企画力、そして何より平戸への熱い想いがありました。

岐阜の山奥から、海開き1週間前の緊急帰郷


力武さんが根獅子の浜海水浴場の管理運営責任者になったのは、2023年7月のこと。しかし、そのきっかけは予想外の場所から始まりました。


「話が来たのは2年前の6月中旬でした。当時、僕は映画の仕事で岐阜の山奥にこもっていたんです。でも、根獅子の浜の話が来た瞬間『やりたい!』と思って。監督に『すいません、地元で海水浴場やりたいんで帰っていいですか?』って直談判しました(笑)」

映画の現場を抜けてまでの緊急帰郷。もともと根獅子の浜のファンだったという力武さん。海開きのわずか1週間前に平戸へ戻り、草刈りや放送設備の準備、トイレ掃除などを突貫工事で進め、なんとかオープンに間に合わせたそうです。

「全部役に立ってますよ、草刈りも掃除も」と笑う力武さん。しかしその行動力の背景には、プロ格闘家を目指した20歳の挫折と、東京の過酷なテレビ業界で培われた、したたかな精神力がありました。

格闘家の夢が砕けた日から始まった、予測不可能な人生


平戸市で生まれ育った力武さんは、高校卒業後、プロの格闘家を目指して上京しました。デビュー戦も果たし、夢へ一歩近づいた矢先。わずか20歳で目の怪我を負い、格闘家としての道を断念することになります。

「もう、何も考えられなかった。いきなり道が途切れた感覚でした」

それでも、前を向くしかありませんでした。「スーツを着なくていいから」という理由で選んだのが、テレビ制作会社への就職。面接会場には有名大学の学生が並び、高卒の自分には場違いだと感じたそうです。

しかし、採用担当の副社長が熱烈な格闘技ファンだったことが、思わぬ転機に。

「”こいつ格闘技やってたなら根性あるやろ”って(笑)。あの一言で人生が変わりましたね」

“スーパーブラック”な現場が鍛えた、タフネスとクリエイティブ


採用後に待っていたのは、いわゆる”スーパーブラック”な現場でした。平均睡眠時間は3時間、年間休日はわずか5日。理不尽な暴力も当たり前のように存在する世界でした。

「殴られるのも日常茶飯事。”こんな人、本当にいるの?”って思いました」

格闘技の経験があったおかげで他の社員よりはマシだったというものの、過酷な労働環境の中で、心も体もすり減っていきます。2年後、限界を感じて退職。その後、下北沢で過ごす日々が始まります。

「売れないミュージシャンや役者が集まる、ちょっと雑多な雰囲気の場所で。飲んでまた飲んで。そんな日々でした」

そんなある夜、行きつけのバーで偶然出会ったひとりの男性。その人物がテレビ業界の有力者だったことが、再び運命の歯車を動かします。

こうしてフリーランスとして再出発。バラエティ番組の制作現場を渡り歩き、気づけば7年間、東京でフリーランスとして生きる日々が続きました。この時代に培った企画力と行動力が、後の地域づくりの活動に大きく活きることになるのです。

東日本大震災が呼び覚ました、故郷への想い


2011年3月11日、東日本大震災が発生。その出来事が、力武さんの人生を根底から変えることになります。復興支援に関わる中で出会ったのは、”自分たちの故郷を何としても再興させたい”と懸命に動く人々の姿でした。

「他人の故郷への想いを見て、平戸を思い出したんです。”俺も、地元に何かできるんじゃないか”って」

そして2012年、ついに故郷・平戸へUターンする決断を下します。帰郷後、まず始めたのは、カフェ「3rdBASEcafe」の開業。古い空き店舗をリノベーションし、地域の人が気軽に集える場をつくりました。

カフェを拠点に、地元の若者や移住者が交わる場を育て、やがて「田舎にぎやかし団体ローカルヒーローズ」を設立。「平戸一番音楽祭」や「草原まつり」、「ひらどナイトフィーバー」など、地域を盛り上げるイベントを次々と企画しました。

さらに、長崎県委嘱の移住コンシェルジュとして移住希望者をサポート。高校の評議員や海水浴場の管理者も務めるなど、活動は年々広がっていきます。

遠浅の海と透明度が自慢。子供連れでも安心の「根獅子の浜」


平戸市の中部、西海岸に位置する「根獅子の浜(ねしこのはま)海水浴場」。白砂のビーチが約1km続き、その海の透明度は「日本の水浴場88選」や「快水浴場百選」にも選ばれるほどの美しさを誇ります。

改めて、根獅子の浜の魅力を聞いてみました。

「一番の特徴は、とにかく遠浅(とおあさ)であること。ずっと浅いエリアが続いていて、急に深くならないんです。だからお子さん連れでも安心して遊べます。海の青さも抜群ですよ」

透明度の高いブルーの海と、1km続く白い砂浜。しかし、近年は海水浴客、特に子供の数が全国的に減っています。力武さんは「ただ管理しているだけではジリ貧になる」と危機感を抱き、新たな楽しみ方の提案を始めました。

その一つが、SUP(サップ)体験です。

元TVマン流「地元の資源は地元で回す」という戦略


力武さんはカヤックとSUPのインストラクター資格を持っており、管理業務の傍ら、初心者向けのSUP体験を提供しています。

「子供の飲み込みは早いですよ!お父さんがカクカク震えてる横で、子供はスイスイ漕いでたり(笑)。商売としてガッツリやるというよりは、まずは『SUPという体験に触れてほしい』という思いで、誰もが体験しやすい料金設定にしています」

毎朝のゴミ拾いや駐車場の管理、トイレ掃除といった「ベーシックな維持管理」を徹底しつつ、SUPのような「オリジナリティ」を追加していく。そこには、力武さんのある強い信念がありました。

「今までは、地元で大きな観光プロジェクトがあるたびに外部の企業に丸投げしてしまう慣例がありました。でも、平戸のいい場所は、平戸の人たちが責任を持って運営するチームを作っていきたい。失敗もするかもしれないけど、まずは任せてみる土壌を作らないといけないなと思って」

これは、単なる地域資源の活用ではなく、地域に経済と誇りを取り戻す戦略です。力武さんの挑戦は、外部依存から地域自走へという、地方の新しいあり方を示しているのです。

根獅子から平戸南部へ、人の流れをつくる未来構想


平戸は南北に長い地形をしています。城下町やオランダ商館がある北部に比べ、根獅子がある中南部は手付かずの自然が残る一方で、お店などが少ないのが現状です。

「根獅子の周りには飲食店もコンビニもほとんどない。人が来ても経済が循環しないんです。だから将来的には、飲食やキャンプができるようにして、ここを拠点に平戸の南部へも人が流れるような仕組みを作りたいですね」

力武さんの頭の中には、すでに次なる構想が広がっています。根獅子の浜を単なる海水浴場ではなく、平戸南部観光の拠点として機能させること。そして、その体験を通じて、訪れる人々の記憶に残る場所にすること。

彼が目指すのは、「モノ」ではなく「コト」を売る戦略。美しい海という素材だけでなく、そこで生まれる笑顔と記憶という体験を届けることなのです。

政治という新たなフィールドへ。”強いチーム平戸”をつくるために

地域の中で活動を重ねるうちに、力武さんは少しずつ”壁”を感じるようになりました。

「できることをコツコツとやってきた。でも、仕組みが変わらないと前に進まない場面も多い。”もっと平戸のために力を尽くしたい”という気持ちが、政治への想いに変わっていきました」

政治は特別な人のためのものではなく、「みんなの声をちゃんと聞く」ための場所であるべき——そう力武さんは語ります。

「正しい判断と、共通の目的。その二つを持つだけで、街はもっと動けると思うんです」

そうした想いを形にするため、政治団体「粋生会(いきいきかい)」を立ち上げました。キャッチコピーは「変わる時代に、変える覚悟を」。国が変化する今こそ、地方も自分たちの手で変えていく。その意志を平戸から発信しています。

「点」と「線」でつながる人生。故郷の未来へ続く挑戦

力武さんの生き方、そして平戸での歩みには、これからの地域をどう支えていくかを考える上で、大切なヒントが詰まっています。

格闘家として培った根性。テレビ業界で育んだ人との縁と企画力。そして、平戸で育まれた仲間とのつながり。それらすべてが一本の線となり、いま、次の挑戦へとつながっているのです。

強いリーダーではなく、仲間とともに動く人。特別な仕組みではなく、地道な対話と実践で街を変えていく人。「誰かがやる」ではなく、「自分がやる」。そんな小さな一歩の積み重ねが、やがて地域の大きな力になることを、力武さんはその背中で教えてくれます。

東京で7年間フリーランスとして揉まれ、東日本大震災のボランティアを機に「地元貢献」を志して帰郷した力武さん。「自分たちで地域を運営する」という彼の挑戦は、この美しい浜辺から新しい波を起こそうとしています。

今年の夏は、ぜひ力武さんが守る「根獅子の浜」で、最高の青い海とSUP体験を楽しんでみてはいかがでしょうか?

“平戸の未来を、みんなで紡ぐ”——その想いを胸に、力武さんの挑戦はこれからも続いていきます。

Rezzedout

根獅子の浜海水浴場(ねしこのはまかいすいよくじょう)

力武 秀樹

住所:長崎県平戸市大石脇町
Instagram:@neshiko_beach_official


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